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マグネシウムで洗う?


■マグネシウムで洗う

 マグネシウムを水につけるとアルカリイオン水ができて、洗剤なしでもきれいに洗濯できる。環境問題へ関心の高い人の間で静かなブームになっているようで、amazonなどのネットショップでも売れているようです。
 昔から、洗剤なしで汚れが落ちるとうたった商品は多く販売されているので、ああまたかという感想ですが、会員の方から「正しいことがわからないと人に勧められない、調べてほしい」と依頼されたので、実験してみました。
 このレポートは、商売の邪魔をしているわけではありません、使っている人を批判するつもりもありません。あくまで、科学的事実だけを述べて、正しい情報をお伝えすることが目的です。

■マグネシウムで洗う −原理−

 マグネシウム(Mg)を水につけると、水と反応して水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)になり、水素ガス(H2)が発生します。水酸化マグネシウムはアルカリ性を示します。

   Mg + 2H2O → Mg(OH)2 + H2

   Mg(OH)2 → Mg2+ + 2OH-    ←このOH-がアルカリ

 マグネシウムが溶けた水はアルカリ性なので、脂肪酸などの酸性の汚れを落とします。また、アルカリ性の水の中では大腸菌などの微生物は増殖できません。
 
 以上が原理です。確かに理論的には、マグネシウムが溶けた水は洗濯に使えそうです。菌が増殖しないのであれば、室内干しでも菌が出す臭いは抑えられるかもしれません。
 では、実際にはどれくらいの効果があるのでしょうか?

参考:マグネシウム
http://magnesium.or.jp/property/safeuse/
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%B0%E3%83%8D%E3%82%B7%E3%82%A6%E3%83%A0

■マグネシウムで洗う −実験−

【実験1】

 まずは、マグネシウムで洗うという製品1袋を1リットルの水につけ、時々ふり混ぜながら10分間放置して、マグネシウムがどれくらい溶け出すか調べてみました。これは、実験室レベルの実験で、実際の洗濯条件よりずっとマグネシウムは溶け出します。

マグネシウムが入った製品 原水のpHは7.4 10分後のpHは9.0

 結果は、水のpHは7.4から9.0に上昇し、水はアルカリ性になっていることがわかります。
 この結果だけ見ると、マグネシウムは効果があるようにも見えます。


【実験2】

 次に、実際の洗濯機にマグネシウムで洗う製品だけを入れて、標準モードで10分水洗いを行ってみました。これは、実際の洗濯を想定した実験で、洗濯機の中でマグネシウムがどれくらい溶け出して、pHがいくつになるかを確かめるものです。

左がもとの水道水で
pH7.4
右は洗濯機で10分攪拌した水でpH7.3

 結果は、元の水道水のpHが7.4、マグネシウムで洗う製品を洗濯機に入れて10分攪拌した水のpHは7.3で、pHに変化はありませんでした。 実験1でpHが9まで上がったのは、水の量が1リットルと少ないため、溶けたマグネシウムの濃度が高かったためですが、実際の洗濯を想定して、洗濯機で約20リットルの水を使った条件では、pHはほとんど変わりませんでした。


【溶け出したマグネシウムの量】

 水に溶け出したマグネシウムの量は、水の硬度を調べればわかります。実験1で水の硬度は70から90に上昇しました。この硬度の変化から計算すると

  溶け出したマグネシウムの量  約 5mg(0.005g)

 ネットや書籍でもアルカリを使った洗濯は、重曹、セスキ、炭酸塩、酸素系漂白剤などが提案されていますが、これらの方法では、洗濯1回につき大さじ2杯程度(30g)使うようです。わかりやすいように、実際の量を写真にとって並べてみました。溶け出したマグネシウムの量は、通常のアルカリ洗濯で使うアルカリ剤の量の1000分の1以下でした。


 マグネシウムが水に溶けると水酸化マグネシウムになります。水酸化マグネシウムは、こんな少量で水をアルカリにできる強いアルカリなのでしょうか?

化学の教科書にも載っているアルカリの強さは

  強アルカリ  : 水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム
  準強アルカリ : 水酸化カルシウム、水酸化バリウム

 水酸化マグネシウムは強アルカリではなく、アルカリは強くありません。

 実験1で作った水に、洗濯物を入れたと想定して、タオルを浸けてみました。
その結果、アルカリは、直ちにタオルの汚れに中和されて

  pHは9.0 → pH7.9 

に下がり、ほぼ水と同じになりました。


 他のアルカリ剤とアルカリの強さをpHで比較してみました。アルカリ剤は実際の使用を想定して、水30リットルに30gを溶かした濃度(0.1%)。マグネシウムは実験1と実験2の結果を示しました。
(pH7が中性、pHが大きいほどアルカリは強い)

水道水  7.4
重曹  8.3
セスキ炭酸ナトリウム  9.3
炭酸ナトリウム 10.7
酸素系漂白剤 10.5
マグネシウム(実験1)  9.0
マグネシウム(実験2)  7.3


■アルカリで洗うということ

 ここからは、マグネシウムで洗うことの話ではなく、一般的なアルカリで洗うということを述べています。

 合成洗剤による手荒れや衣類への残留による肌トラブルの悪化が気になる人、近年の合成洗剤や柔軟剤の強い香りが苦手な人、あるいは環境問題に関心が高く、少しでも洗剤の使用量を減らしたい人などを中心に、石けんや洗剤を使わない製品には関心が集まります。
 これらは、ずっと昔から繰り返され、様々な製品が売り出されきました。

 洗濯ボール、洗濯リング、洗剤のいらない洗濯機、磁化水、電解水、水素水、重曹、セスキ、炭酸塩、酸素系漂白剤、食塩・・・・

 明らかに怪しい製品は消えてしまっていますが、アルカリで洗う方法は、一定のユーザに定着しています。アルカリは正しく使うと掃除や洗濯に役立つシーンもあります。本HPでも、アルカリの使い方を紹介しています。

  酸やアルカリを使った洗浄 (1) セスキスプレー
  酸やアルカリを使った洗浄(2) 重曹と炭酸塩
  アルカリ助剤を使った洗濯は効果あるの?
  重曹電解水と重曹熱分解水
  アライグマが地球を汚す  

 アルカリ剤は石けんや洗剤と違って、油汚れ、泥汚れ、タンパク汚れ、襟の汚れ、袖の汚れなどの洗濯は苦手です。このような汚れがあるものをまとめて洗濯する場合は、石けんや洗剤を使ってきちんと洗濯する必要があります。

 しかし、最近は汚れていなくても、一度使ったタオル、汚れていないが袖を通した衣類、目立った汚れはないけれど毎日洗濯する習慣にしているなど、汚れていないものを洗濯する人が増えています。このようなものの洗濯は洗剤を使う必要もなく、水だけでほとんど落ちてしまうものがほとんどですが、水だけでは不安なのでアルカリ剤を使うといったケースです。
 過度の清潔志向で、汚れていないものを毎日洗うような習慣は、水資源や環境的には問題がありますが、使う必要のない洗剤を使わなくなる点だけは少しはマシかもしれません。
 ネットでもアルカリ剤を使っている人の投稿が目立ちますが、それらの内容は、水や洗剤と比較した例はほぼなく、水だけでも落ちるような軽い汚れを洗った例がほとんどです。
 
 アルカリ剤で洗濯すると部屋干しで臭いがなくなった、黒ずみがなくなったという例を報告される人がいました。この理由は、石けん洗濯がうまくいかず、石けんカスが洗濯物に残留していたためです。石けんカスは菌の餌になるので、部屋干しで菌が増殖して臭いや黒ずみが発せします。アルカリ剤で洗うと、石けんカスが残らないので臭いは抑えられます。

 使うアルカリによっても効果は異なります。上の表でアルカリ剤のpHを示していますが、重曹はpHが低く、アルカリ剤としての性能が劣ります。重曹のアルカリを高めるにはお湯に溶かせばいいという記事は 重曹電解水と重曹熱分解水 にあります。炭酸ナトリウムが一番強いアルカリですが、入手が難しいので、入手しやすから考えると酸素系漂白剤が適当ではないかと思います。

 石けんや洗剤の使用量を減らしたい人は、洗濯物を分けることが効果的です。洗濯物をまとめておいて、汚れのひどいものは石けん、洗剤で洗う、目立った汚れのないものは、何回かに1回はアルカリ剤を使ってみるといった使い分けです。

 アルカリ剤を使っても石けんや洗剤の使用量は減らすことはできません。適量以下では、石けんや洗剤の洗浄力がなくなるだけでなく、石けんカスが残留します。石けんや洗剤の使用量は守る必要があります。

 洗剤の残留による肌トラブルや柔軟剤の臭いが気になる人は、本HPでは石けんと軟水の使用を勧めています。軟水は石けんの弱点である石けんカスができない、石けん使用量を減らすことができ、洗浄力を高めることができます。