Home/

重曹電解水と重曹熱分解水


■重曹電解水

 通販や訪問販売、デパートなどで見かけることも多い「重曹電解水」。食品添加物としても使われている重曹と水から作られ、洗剤無しで汚れが落ちるエコグッズとして、環境問題に関心のある人に注目されています。
 私も、使う機会があって、実際に使ってみると、台所周り、窓のサッシ、ドアの取っ手や、家具など、ちょっとした汚れには確かに効果があります。思わず「これは買いだ!」と舞い上がりそうになりますが、値段を見ると、1リットル1,000円!(液体石けんより高い)、電解水製造器なるものもあって、こちらは、何と30万円!
 何か怪しい?いったい重曹電解水の正体は何か? 疑問が生じます。
 今回は、重曹電解水の正体を科学的に明らかにして、重曹電解水は本当に必要か? 重曹電解水の変わりに使えるものはないかを考えてみます。


■重曹電解水の原理

 重曹電解水は、重曹(炭酸水素ナトリウム)を水に溶かし、電気分解装置を使って作るというものです。

 原料:  NaHCO3(重曹)  H2O(水)

 陽極(+)での反応: 4HCO3- → 2H2O + 4CO2↑ + O2↑ + 4e


 陰極(-)での反応:  Na+ + e → Na
              2Na + 2H2O → 2NaOH + H2(水素)↑
              NaOH + NaHCO3 → Na2CO3(炭酸ナトリウム) + H2O

 まとめると、陽極では二酸化炭素(ガス)と酸素(ガス)が発生する、陰極では水素(ガス)が発生し、水中では炭酸イオンが生じる。
つまり、重曹(炭酸水素ナトリウム)が、電気分解で炭酸ナトリウムに変わるというものです。
 もっとも、実際は、重曹が100%電気分解するわけではないので、電気分解の結果、重曹と炭酸ナトリウムが混ざったもの、すなわちセスキ炭酸ソーダと同じようなものができます。

 重曹、セスキ炭酸ソーダ、炭酸ナトリウム(炭酸塩)は、いずれもアルカリ剤として、入浴剤や、石けんの助剤として使われています。

 アルカリ剤の強さは

     重曹 < セスキ炭酸ソーダ < 炭酸ソーダ   です。

 具体的に、どれくらいアルカリの強さが違うか調べてみました。洗面器に小さじ1杯程度のアルカリ剤を溶かしたとき(0.1%水溶液)のpHは次のようになりました。

アルカリ剤  0.1%水溶液のpH 
重 曹 7.4 
セスキ炭酸ソーダ 9.8 
炭酸ナトリウム 10.4 

 中性がpH7.0なので、重曹は、ほぼ中性です。アルカリの強さは非常に弱く、洗濯や、洗浄剤としては全く役に立ちません。電気分解することで、セスキ炭酸ソーダのpHに近くなり、アルカリ剤としての効果が出ます。ある程度の濃度のアルカリ剤は、プラスチックやタイルに着いた軽い汚れに効果があることは、本HPの中でも述べています。
 酸やアルカリを使った洗浄(1)
 酸やアルカリを使った洗浄(2)

 確かに、重曹を電気分解することで、アルカリの強さが高まり、軽い汚れなら簡単に落ちる洗浄剤を作ることができます。


■重曹熱分解水

 しかし、1リットル1,000円、製造装置30万円は、いくら何でも高すぎます。電気分解しないと、重曹のアルカリは強くできないのでしょうか?

 重曹はベーキングパウダーとして、ふくらし粉などに使われています。カルメ焼きを作るところを見た人も多いと思いますが、カルメ焼きは、銅の鍋で砂糖を溶かし、重曹を入れてかき混ぜることで、重曹が分解して炭酸ガスが発生し、あのように泡を含んだ砂糖菓子ができるのです。そうです、重曹は熱で簡単に分解します。

 熱分解の反応は次のようなものです

 2NaHCO3 → Na2CO3 + H2O + CO2↑

 重曹は、熱分解して炭酸ナトリウム、水、そして二酸化炭素に変化します。
 もう、おわかりですね・・・・重曹をわざわざ電気分解しなくても、熱をかけるだけで、簡単に炭酸ナトリウムに変わり、アルカリが強くなります。

 作り方は簡単です

 レシピ1(スプレー用)

  重曹  小さじ  1杯  
  水    1カップ 

 鍋でお湯を沸かし、沸騰したら重曹を加えます。二酸化炭素(炭酸ガス)の泡がシュッとでます。さらに、弱火で5分ほど沸騰させればできあがりです。
 注意:アルミの鍋は使えません。ステンレスかホーロー製を使ってください。

 このようにして作った、重曹熱分解水のアルカリの強さを調べてみました。

アルカリ剤  0.1%水溶液のpH 
重 曹 7.4 
重曹熱分解水 9.4 
セスキ炭酸ソーダ 9.8 
炭酸ナトリウム 10.4 


 重曹熱分解水のpHは9.4で、重曹の7.4よりずっと高く、ほぼセスキ炭酸ソーダと同じになりました。この、重曹熱分解水は、重曹電解水と同じように、軽い汚れの洗浄にも使えますし、セスキ炭酸ソーダの代わりにも使えます。
 重曹電解水は、1リットル1,000円ですが、この、重曹熱分解水は、1リットル10円程度です。


■重曹熱分解水の応用

(1) スプレーにして、軽い汚れの洗浄に
 レシピ1で作った重曹熱分解水(5%)は、スプレー容器に入れて、台所周り、窓のサッシ、電気製品の汚れ、家具の汚れなど、軽い汚れに効果があります。スプレーして、乾いた雑巾で拭き取ってください。

(2)セスキ炭酸ソーダの代用品として
 セスキ炭酸ソーダは、(1)のような使い方や、洗濯に使われている方もいます。
しかし、重曹が、スーパーやドラッグストアで安価に簡単に入手できるのに対して、セスキ炭酸ソーダは、高価であり、入手が難しいため、通販で購入することも多いと思います。セスキ炭酸ソーダ自体は、無機物であり、環境負荷も小さいと考えられますが、入手するために通販を使い、トラックで運ぶことによるエネルギーの消費、温室効果ガスの発生は無視できません。何のために、環境負荷の少ない洗浄剤を使うのかわからなくなります。
 セスキ炭酸ソーダの値段は、1kgで600円前後で販売されています。これは、ドラッグストアで入手できる重曹の1.5倍。助剤なのに粉石けんの2倍以上の値段です。重曹は、通販で大量に買えば、食品添加物級で1kg168円程度です。

アルカリ剤  値段(1kg)  備考
セスキ炭酸ソーダ 600円  通販の場合、送料がかかる
重曹(ドラッグストア) 400円 
重曹(通販) 168円  http://www.kiuchicleaning.com
粉石けん(参考) 270円  お洗濯のしゃぼん

 
 重曹熱分解水(濃縮タイプ)を、まとめて作っておけば便利です。

 レシピ2(濃縮タイプ)

  重曹   200g       
  水    5カップ 
  

 ステンレス(またはホーロー)製の鍋でお湯を沸かし、沸騰したら重曹を少しずつ加えます。
(一度に大量に入れると、炭酸ガスが吹き出すので十分注意してください)

弱火にして、そのまま5分ほど沸騰させるとできあがりです。液体石けんなどの空容器に保存すると便利です。

洗浄用スプレー
 重曹熱分解水(濃縮タイプ)を、水で10倍に薄めて使います。

液体石けんや純石けんの助剤として
 液体石けんや純石けんは、アルカリが弱くて洗浄力が劣りますが、助剤として水30リットルに、重曹熱分解水(濃縮タイプ)を50mL加えると、洗浄力が高まります。

セスキ炭酸ソーダの代用に
 重曹熱分解水(濃縮タイプ)は

    セスキ炭酸ソーダ 小さじ1杯 = 重曹熱分解水(濃縮タイプ) 25mL(大さじ 1.5杯)
    セスキ炭酸ソーダ 大さじ1杯 = 重曹熱分解水(濃縮タイプ) 75mL(大さじ   5杯)

 として使えます。


■重曹熱分解水の洗浄力試験(1) 皮脂汚れ

 重曹熱分解水の洗浄力試験を実施してみました。重曹熱分解水は、やや弱いアルカリなので、石けんほどの洗浄力は期待できません。
泥汚れ、油汚れ、襟あかなどのひどい汚れを落とすことはできません。洗浄力が期待できるのは、皮脂汚れなど、脂肪酸を含んだ汚れです。
 
 皮脂のついたハンカチを使って、洗浄力を調べました。

皮脂のついたハンカチを4つに切って

1.そのまま(洗わない)
2.水で洗う
3.重曹熱分解水で洗う
4.石けんで洗う

 重曹熱分解水:水2リットルに、レシピ2で作った重曹熱分解水(濃縮タイプ)を小さじ2杯(10mL)を加える
 石けん:水2リットルに、粉石けん2.7gを溶かす(標準使用量、水30リットルに40g溶かした場合と同じ濃度)

 水、重曹熱分解水、石けんに、皮脂のついたハンカチを入れ、2時間つけ置きしたあと、小型ブレンダーで2分間かき混ぜました。

1.の洗わないものに比べて、2.の水洗いはあまり汚れは落ちていません
4.の石けんが一番落ちているが、3.の重曹熱分解水もある程度落ちています

 これでは、汚れ落ちの差がよくわからないので、色素で着色してみました。この色素は、油に溶ける色素で、
ハンカチに残った皮脂を着色することができます。

皮脂を着色することで、汚れ落ちがはっきりわかるようになりました
石けんが一番落ちていますが、重曹熱分解水も、水よりは良く落ちています


■重曹熱分解水の洗浄力試験(2) タオルの汚れ

 何度か使った洗面所用タオルを、水と重曹熱分解水でつけ置き洗いしてみました。

左は重曹熱分解水:水2リットルに、レシピ2で作った重曹熱分解水(濃縮タイプ)を小さじ2杯(10mL)を加える
右は水道水


洗面所用タオルを、写真のように重曹熱分解水と水道水に2時間つけ置きした後、押し洗いし、水の濁りを比べました


左:重曹熱分解水で洗った水
中央:水道水で洗った水
右:水道水のみ

 重曹熱分解水で洗った水の方が、水道水で洗った水より濁っていました。水の濁りを濁度計でで量ってみた結果は、
  
   重曹熱分解水   226
   水道水       101

 であり、重曹熱分解水の方が、水道水に比べて、約2倍程度濁っていました。これは、それだけ汚れが溶け出したことを示しています。



注意:今回の洗浄力試験(1)(2)は、主として皮脂汚れの落ち方をテストしたものです。皮脂汚れには、脂肪酸が含まれているので、アルカリで落ちやすい汚れです。この洗浄力試験結果から、重曹熱分解水が、石けんの代わりに、日常の洗濯に使えることを保証するものではありません。