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石けんライフと軟水
■硬水と軟水 雨は空気中の水蒸気が水の粒になって降ってくるもので、その中にはミネラル分はほとんど含まれていない蒸留水のようなものです。地上に降り注いだ雨は、地表を流れて川になったり、地面にしみこんで地下水になったりするのですが、そのときに地面に含まれるミネラル分が水に溶け込みます。 水道水には鉄、ナトリウム、カリウムなど数多くのミネラル分がとけ込んでいますが、それらのうち比較的多く含まれるミネラルがカルシウムとマグネシウムです。この2つは硬度成分と呼ばれ、その濃度のことを硬度と呼んでいます。 硬度は1リットルの水に硬度成分(炭酸カルシウム)がどれだけ溶けているかを示したもので、日本の水道水の平均硬度は50〜60(mg/L)、地下水の硬度は水道水に比べて高いものが多いようです。海外の硬度に比べて、日本の硬度は比較的低いのですが、硬度は地域によってずいぶん差があります。 硬度は石けんの泡立ちに大きく影響します。石けんが使いやすい水を軟水、逆に使いにくい水のことを硬水と呼んでいます。世界保健機構(WHO)のガイドラインでは、硬度は以下のように分類されています。
■石けんの弱点 石けんを使う上での最大の問題は石けんカスです。石けんカスは石けんが水道水中のカルシウムやマグネシウムイオンと結合することでできます。その原理は以下の式で表されます。 2・RCOO- + Ca2+ → Ca(RCOO)2 石けん カルシウム 石けんカス この式でRはアルキル基(炭素がつながった物)で、RCOO- が石けん、Ca(RCOO)2 が石けんカス(金属石けん)です。 たとえばステアリン酸石けん(C17H35COONa)の場合、61gの石けんと4gのカルシウムが反応します。 石けんカスは水に溶けにくい白い粉のようなもので、洗浄力はありません。それどころか、石けんカスは汚れと同じなので、石けんの洗浄力がその分落ちることになります。泡立ちも悪くなります。
日本の水は外国に比べて軟水であるとよく言われます。日本の水道水の硬度は平均約60、これは水1リットルに硬度成分(カルシウムとマグネシウム)が炭酸カルシウムとして60mg(その中でカルシウムは24mg)含まれているという意味です。井戸水を使っている地域では、水道水より硬度は高くなります。 日本の水は飲料用としては適度の硬度を含んでいて問題ありませんが、石けんを使うという面で考えるとどうでしょうか? 洗濯で30リットルの水に40gの粉石けん(石けん分70%)を使うとします。30リットルの水には0.72gのカルシウムイオンが含まれているので計算上10.6gの石けんが石けんカスになることになります。実に、洗濯に使った石けんの30%以上が石けんカスになってしまうということです。石けんカスは水に溶けないので洗浄力はなく、衣服に付着、残留して黄ばみの原因になります。
また、やっかいなのはすすぎの際、石けんが薄められたときです。粉石けんは、濃度が600ppm以下では洗浄力を失います。石けんは石けんカスになり、溶けていた汚れは衣服に再付着します。 これは洗濯の時だけでなく、食器洗いの時、石けんで洗ったお皿をゆっくりすすいでいると、油が再付着してお皿はべとべとになります。 お風呂でも同じです。石けんで洗顔したあと肌がつっぱるのは石けんだから仕方ないと思っていませんか? これは石けんのせいではなく、石けんカスが皮膚に残留しているためです。皮膚に残留した石けんカスは膜となるので、皮膚が乾燥したときつっぱり感が出ます。 石けんシャンプーで洗髪したあと髪の毛がキシキシ、ゴワゴワしませんか?クエン酸リンスだけでさらさらの髪になりますか?乾かしたあとふけのような白い物が髪の毛に残りませんか? これらの、石けんシャンプーの仕上がりの悪さも、多くは石けんカスが髪の毛に残留しているのが原因です。 このように考えてみると、石けんの欠点の大部分は石けんカスにあると考えられます。 つまり、石けんカスができない工夫をすると石けんライフはもっと快適になるはずです。 ■軟水器とは 水道水中の硬度成分を除去する方法はいくつかあります。合成洗剤には軟化剤としてエデト酸塩(EDTA)やゼオライトが含まれています。これらはカルシウムイオンとキレートを作ったり、吸着したりしますが、このような化学物質を洗濯に使うと、残留が心配ですし、ましてお風呂に入れることなんかできません。 ボイラー用水に硬度成分が含まれていると、スケールが発生してパイプが詰まったりして事故につながります。そこで、ボイラーに使う水は「軟水器」という装置を使って硬度成分を除去するのは常識となっています。 また、軟水器は硬度成分が直接影響する食品業界でも多く使われています。 軟水器の原理は簡単です。軟水器には「強酸型イオン交換樹脂」という、ちょうど「カズノコ」のような粒状のプラスチックを用います。 イオン交換樹脂にカルシウムなどの硬度成分を含んだ水を流すと、水中のカルシウムイオンはイオン交換樹脂と結合し、その代わりにナトリウムイオンが溶けだします。その結果、軟水器を通すとほぼ硬度ゼロの水が得られます。
イオン交換樹脂がカルシウムイオンを吸着できる量は決まっています。カルシウムイオンを吸着したイオン交換樹脂は食塩水を流すことで再生することができ、繰り返して使うことができます。再生に安価で安全な食塩を使うことで、軟水器は非常に経済的に軟水を作ることができます。
このように軟水器の原理は簡単で、イオン交換樹脂さえ入手できれば自作も可能です。 最近では日立が「イオン洗浄」という名前でイオン交換樹脂を内蔵した洗濯機を製品化しています。また、家庭用軟水器も自動再生機能付きのものや、安価なものが販売されるようになりました。 |
■石けんライフと軟水 石けんライフに軟水を使うと、どのようなメリットがあるのでしょうか? 1.洗濯に使った場合 ・石けんカスができないので、粉石けんの使用量が少なくてすむ ・粉石けんの洗浄力が高まる ・すすぎの時に石けんカスができないので、衣服に再付着せず、においや黄ばみや格段に少なくなる ・色物(特に黒っぽい物)を洗ったときでも、石けんカスの白い粉がつかない ・石けんカスが洗濯槽に付かないので全自動洗濯機でもかびが生えない 2.台所で使った場合 ・洗浄力が高まる ・すすぎの時石けんカスができない、油の再付着が著しく少なくなり、食器がきれいに洗い上がる ・調理に使う場合、お茶や紅茶のタンニンがカルシウムと結合しないのでおいしい。煮物が柔らかくなる。 ・石けんカスがでないのでシンクはいつもきれい 3.お風呂で使った場合 ・温泉のような柔らかいお湯になる。アルカリ温泉のようにぬるぬるした感じ ・石けんの泡立ちが良く、使用量が少なくて済む ・石けんカスができないので洗い上がりがさっぱりしている ・石けんで洗顔したあとも、肌がつっぱらない ・特に石けんシャンプーの仕上がりは目から鱗!さらさらに仕上がる ・お風呂上がりの肌はつるつる、すべすべになる ・刺激が少なく、アトピーや乾燥肌の人には良い ・石けんカスが浴槽や排水溝に付かないのでお掃除も楽々 4.その他 ・加湿器の水に軟水を使うとスケールができず、部屋のガラスなどもくもることはありません ■軟水のお風呂はなぜ肌に優しいか 温泉好きの人は一度は経験したことがあると思いますが、石けんを流したあとも肌がぬるぬるして、いくらすすいでも石けんがとれない、でもお風呂上がりは肌がつるつるになる温泉がありますね。このような温泉は実は温泉の水質が軟水なのです。 お風呂に軟水を使うと、そんな軟水温泉のようなお湯になります。石けんの泡立ちがよくて半分くらいの量で十分です。石けんシャンプーだってリンスしなくてもさらさらに仕上がります。お風呂上がりの肌はすべすべになります。でも、なぜでしょう? 「石けんの化学」でも説明しましたが、さらに軟水と石けんの化学について説明を加えてみます。 石けんが水に溶けると脂肪酸イオンとナトリウムイオンに解離します RCOONa(石けん) → RCOO-(脂肪酸イオン) + Na+(ナトリウムイオン) ・・・(1) 脂肪酸イオンが界面活性剤として働きます、すなわち親油基であるR(アルキル基)が油に溶け、親水基であるカルボキシル基(COO-)が水に溶けるのでミセルを作ります。 石けん濃度が臨界ミセル濃度(cmc)より濃い場合はこのようにミセルを作っているのですが、石けんを流して薄められた場合、cmc以下の濃度になったときにミセルはばらばらになります。 ばらばらになった脂肪酸イオンは弱酸であるためすべてがイオンの形で存在することが出来ないため、一部が水と反応して脂肪酸になります。 RCOO- + H2O → RCOOH(脂肪酸) + OH- ・・・(2) この脂肪酸はクリーム状で水に溶けにくいため皮膚表面にに吸着してぬるぬるした感じになります。では、皮膚に脂肪酸が残留しても大丈夫なのでしょうか? 石けんなどの洗浄剤で体を洗うと汚れと一緒に皮膚表面の皮脂膜も落とされます。皮脂膜は皮脂腺から出る油分と汗腺から出る水分が混ざったクリーム状のもので、この皮脂膜のおかげで皮膚の乾燥を防ぎ、異物の侵入を防ぐことが出来ます。では、皮脂膜は何で出来ているのでしょうか? ヒト皮脂膜の構成 (D.T.Dawning) ------------------------------------ 成分 量(%) ------------------------------------ トリグリセライド 19.5〜49.4 ジグリセライド 2.3〜4.3 脂肪酸 7.9〜39.0 スクワレン 10.1〜13.9 ワックスエステル 22.6〜29.5 コレステロール 1.2〜2.3 コレステロールエステル 1.5〜2.6 ------------------------------------- トリグリセライドはいわゆる油脂とよばれるものでグリセリンと3個の脂肪酸が結合しています。3個の脂肪酸が結合しているので「トリ(3)」グリセライドと呼ばれます。ジグリセライドはグリセリンに2個の脂肪酸が結合したものです。そして、スクワランは不飽和炭化水素、コレステロールは生体成分ですね。 そして、脂肪酸が含まれています。脂肪酸は酸であり、皮膚表面を弱酸性に保ちます。そうです、軟水で洗ったあと皮膚に残る脂肪酸は皮脂膜の成分そのものだったのです。つまり、石けんで洗浄して除去される皮脂膜を、軟水を使うことで自動的に補充してくれるのです。これで、軟水のお風呂に入ったあと肌がすべすべになる理由もわかりました。まさに、石けん+軟水は肌にとって理想的な洗浄を実現するのです。 ちなみに、軟水でなく水道水を使った場合、石けんが薄められたときに 2・RCOO- + Ca2+ → (RCOO)2Ca (石けんカス) ・・・(3) という反応が優先して起こり、皮膚に残留するのは石けんカスです。石けんカスは水にほとんど溶けず、保水力もありませんから皮膚が乾燥してつっぱった感じになります。 さらに詳しい解説は→ 理想の洗顔 ■軟水を使った洗浄力試験 軟水を用いて洗浄力試験をしてみました。試験方法は前に紹介したとおりです。 まずは粉石けんを標準使用量(50リットルの水に50g)使いました。使った粉石けんはグリーンコープの「しゃぼん(石けん分65%)」です。合成洗剤は花王のアタックです。
石けんは水道水中の硬度成分と石けんカスを作ります。硬度60の水道水だと石けんの約3分の1が石けんカスになってしまいます。石けんカスのできない軟水だとせっけんの能力が100%発揮できます。 次は、石けんには過酷な試験です。通常の使用量の半分(50リットルに25g)で試験してみました。
石けんは水道水中では0.06%以上でないと洗浄力はありません。洗浄力試験でもこの濃度では全く洗浄力はありません。しかし、軟水では標準使用量の半分でも立派に泡立ち、洗浄力もこのとおり!!合成洗剤(標準使用量)よりもよく落ちています。 軟水はこのように石けんの能力を100%発揮でき、石けん使用量を減らすことができます。(財布にも環境にも優しい) 石けんライフを送っている方は、ぜひ軟水を経験してもらいたいと思います。 |