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炭酸塩で硬水を軟化する


硬水を軟化する方法

 石けんは、使う水の硬度によって大きく使い勝手が違ってきます。水の硬度を下げる方法は、以下の方法があります。

(1) アルカリ法(石灰軟化法、石灰ソーダ軟化法)
  消石灰(水酸化カルシウム)のみ、または消石灰とソーダ灰(炭酸ナトリウム)を併用して硬度を除去する方法です。
  硬度成分は、炭酸カルシウムとして沈殿します。
(2) イオン封鎖法
  エチレンジアミン四酢酸(エデト酸、EDTA)などのキレート剤を用いて、硬度成分を封鎖する方法。
(3) イオン交換法
  イオン交換樹脂で、硬度成分を除去する方法。これは、他のページで詳しく説明しています。

 (2)の方法は、生分解性の悪い、また、アレルギー物質でもあるEDTAを用いるので、ここでは述べません。
 (1)のアルカリ法が家庭でも使うことができれば、硬度の高い水を使っている人にとっては、石けんの使い勝手が著しく良くなり、石けん使用量も減らすことができます。
 ここでは、家庭でもできる、アルカリ法による硬水の軟化について調べてみました。

 この実験に先立って、炭酸塩で水が濁る原因は、硬度成分と炭酸塩が反応して、炭酸カルシウムの沈殿ができることは確認しています。
 こちらのページを参考にしてください。
  炭酸塩で水が濁る?


どのアルカリ剤が効果があるか

 今回実験したアルカリ剤は、@重曹、Aセスキ炭酸ソーダ、B炭酸塩(炭酸ソーダ)、C酸素系漂白剤(過炭酸ソーダ)の4種類です。
アルカリの強さは

  弱い← 重曹 < セスキ炭酸ソーダ < 酸素系漂白剤 < 炭酸塩 →強い

 になります。

実験は、以下のように行いました。

(1) 硬度 150 の水を用意する.
(2) (1)の水に、@重曹、Aセスキ炭酸ソーダ、B炭酸塩(炭酸ソーダ)、C酸素系漂白剤(過炭酸ソーダ)が、
  それぞれ 0.033%(水30リットルに10g溶かした濃度)になるよう加える。
(3) そのまま静置し、0.5、1、2,3,4,6 時間後に上澄みの硬度を測定する。

結果は、次のようになりました



(1) 対照(何も入れない)の硬度は、1時間後に150から130に下がって、その後は変わらなかった。
(2) 重曹、過炭酸ソーダは、対照とほとんど変わらず、硬水軟化効果は認められなかった。
(3) セスキ炭酸ソーダは、1時間後に硬度が70まで下がった。
(4) 炭酸塩は、2時間後に硬度が30まで下がった。

 炭酸塩を用いることで、硬度が約5分の1になったのは、予想より大きな効果でした。炭酸カルシウムの溶解度は50mg/Lなので、硬度は50以下にはならないと考えていましたが、過剰量の炭酸イオンを加えることで、炭酸カルシウムとして沈殿しやすくなったようです。
 硬度150の水では、きわめて石けんが使いにくいのですが、硬度30になると、日本の平均硬度より低く、きわめて石けんの使い勝手は向上します。

 セスキ炭酸ソーダの場合は、その成分である、重炭酸イオンは硬水軟化に働かず、炭酸イオンのみが働いていると考えられます。いずれにしても、硬度は70以下には下がらないことから、日本のほとんどの水では効果が期待できません。


炭酸塩濃度の最適化

 炭酸塩を入れると、硬度が下がるのはわかったので、次に最適濃度を調べてみました。
同じ実験を、炭酸塩濃度が、0、0.01、0.02、0.03、0.05、0.1%について行いました。2時間後に上澄みの硬度を測りました。



 一番濃度の濃い、0.1%では、何と硬度は20まで下がりました。しかし、炭酸塩のコストも考えて、最適な濃度は0.03〜0.05%付近だと考えられます。
これは、水30リットルに9gから15g加える量に相当します。


炭酸塩入りの石けんを使えば問題は解決するか?

 炭酸塩が、カルシウムと不溶性の塩を作って、硬水を軟化するのはわかりました。これは、下の図のような仕組みです。

カルシウム(赤)を含んだ水 炭酸塩を投入する 不溶性の炭酸カルシウムが沈殿して、水の硬度は下がる


それでは、炭酸塩入りの粉石けんを使うと、同じように炭酸塩が硬水を軟化し、石けんカスができなくなるかといえば、それは大きく違います。

カルシウム(赤)を含んだ水 炭酸塩入り粉石けんを投入する 石けんの方が早くカルシウムと結合して、石けんカスを作る

 炭酸塩入りの石けんを使った場合、炭酸塩よりも石けんの方がカルシウムと結合する力が強いので、炭酸カルシウムができる前に、石けんカスができてしまいます。
 炭酸塩は、単独では硬水軟化効果はありますが、石けんと同時に使っても硬水軟化効果は期待できません。実際、炭酸塩入りの粉石けんも、水の硬度に大きく影響されることは次の気泡力試験のグラフからもわかります。




炭酸塩をどのように使うか

 それでは、炭酸塩をどのように使ったら、硬水の軟化に効果があるのでしょうか?

(1) お風呂の残り湯(100リットル)に、炭酸塩を大さじすりきり3杯(約45g)入れて、良くかき混ぜる。
(2) 2時間以上静かに放置すると、不溶性の炭酸カルシウムが底に沈むので、上澄みの水を使って洗濯する。一晩おいてもかまわない。
(3) 石けん使用量は、標準使用量の1〜2割減らしても大丈夫。すでに炭酸塩が入っているので、純石けんでも洗浄力は十分発揮できる。
(4) すすぎ1回目も、残り湯を使った方が良い。
(5) 洗濯が終わったら、浴槽の底に沈んだ炭酸カルシウムをすぐに掃除する。放置しておくと、白く硬い結晶になってとれにくくなる。
  もし、とれにくい場合は、お酢かクエン酸を使う。

注意点:
(1) 硬度が60以上の場所で効果があります。50以下の場所では、無駄に炭酸塩を使うだけです。
(2) セスキでは効果がありません。無駄なだけです。
(3) 硬度が下がるので、石けん使用量を減らしてください。必ず標準使用量以下になります。
(4) 洗濯機の洗濯槽で同じことをしないでください。炭酸カルシウムの結晶は鉄よりも硬いので、洗濯機のモーター軸や、排水バルブを痛め、故障の原因になります。

炭酸塩の入手先
薬局で「洗濯ソーダ」、「炭酸ナトリウム」、「炭酸ソーダ」という名前で入手できます。ない場合は取り寄せてもらってください。
製造元のエスケー石けんのHPからも購入できます。