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炭酸塩で水が濁る?


炭酸塩を入れると水が濁る

 「アルカリ洗浄をしようとして、洗濯機に炭酸塩を入れたら、底が見えなくなるほど水が濁る」という相談をお受けしました。
重曹なら濁りは少ないが、セスキや炭酸塩なら濁りが多いとのことです。

 ネットの掲示板でも、濁るという人と、濁らないという人、時間が経ったら濁る人、時間が経ったら透明になる人・・・など意見が分かれて、いったい濁りの原因が何かよくわかりません。

 早速、その水を入手しました。水は石垣島のものです。石垣島−沖縄−硬度が高い、と連想しそうですが、実は石垣島の水道水の硬度はそれほど高くありません。送られた水の硬度を測ってみると85でした。硬度85は日本平均よりやや高めですが、関東や九州ではごく普通に見られる硬度です。

実 験
 
 送られた水道水100mLに炭酸塩5gを入れて良くかき混ぜたあと30分放置しました。また、同様に水酸化ナトリウム1gを入れて放置しました。それらの写真を下に示します。

 左から、水道水のみ、炭酸塩添加、水酸化ナトリウム添加 

 実験から、炭酸塩を加えた物だけが濁っています。アルカリと反応して濁るなら、水酸化ナトリウムを加えたものも濁るはずですが濁っていません。つまり、水の中には炭酸イオンと反応して、不溶性の塩を作るものが入っているということです。

 硬度が85とやや高めであること、炭酸イオンと不溶性の塩を作ること、水道水のデータに特別違いが見られないことから、濁りの正体は水中の硬度成分と炭酸イオンが反応した炭酸カルシウム(一部炭酸マグネシウム)と推定しました。

 では、なぜ炭酸塩を使っている人でも、濁る人と、濁らない人がいるのでしょうか?

 炭酸カルシウムの溶解度は50mg/Lです。1リットルの水に0.05gしか溶けないということですが、これは硬度50に相当します。わかりやすく言うと、使っている水道水の硬度が50以下なら濁らない、50以上なら濁る、ということです。大阪や近畿など硬度の低い水を使っている人は、炭酸塩を入れても水は濁らないけれど、関東や九州など比較的硬度の高い水を使っている人は濁るということです。
 また、重曹を入れて濁りが少ないわけは、重曹の主成分は炭酸水素ナトリウムで、硬度成分と反応してできるのは炭酸水素カルシウムです。炭酸水素カルシウムは、炭酸カルシウムに比べて水に溶けやすいので濁らないということです。

 関東で炭酸塩を使っても濁らないと言う方もいらっしゃるかもしれませんが、その理由は次のようになります。

 水道水に炭酸塩を入れて、激しくかき混ぜ、完全に溶かしてから、時間と濁りの関係を調べました。



 溶かした直後は透明ですが、時間とともに濁ってきます、8〜9分後に濁りは最大になって、それからは少しずつ液は透明になってきます。
 この現象は次のように説明できます。

(1) 硬度85の水に炭酸塩が加えられたので、水中のカルシウムと炭酸イオンが反応して炭酸カルシウムができる。
(2) 硬度85のうち50は水に溶けた状態で存在するが、残りの35は水に溶けない塩が析出する。
(3) 水に溶けない炭酸カルシウムは、はじめは微粒子の状態で存在するので濁っていない。時間が経つとともに微粒子同士が結合し大きな結晶に成長する。結晶が大きくなると濁りになる。
(4) さらに時間が経つと、大きくなった結晶は容器の底に沈み、液は透明になっていく。

 炭酸塩を溶かして数分は液は透明なままです、また、溶かしたあと静置せずに、そのまま洗濯すれば、水が動いているので結晶ができにくいので、濁りには気が付きにくいのです。洗濯物を入れたら、濁りと汚れが一緒になるので、さらに濁りには気が付きにくいと考えられます。

炭酸塩を入れて濁った水で洗濯して大丈夫か?

 濁りの成分である炭酸カルシウムは、食品添加物にも使われているので安全性には問題ありません。また、硬度50以下の水を使っている人は、濁りができないので問題ありません。問題になるとすれば、硬度の高い水を使っている場合、特にアルカリで浸け置きをする場合です。
 炭酸カルシウムは鍾乳石の主成分といえばわかるように水に溶けにくい固い鉱物です。硬度の高い地域の水道の蛇口付近に白くこびりついている汚れも炭酸カルシウムです、やかんの底のざらざら、食器洗い乾燥機で洗ったグラスの表面に残る水のあとも炭酸カルシウムです。これらは、一度こびりつくと、なかなかとれません。

 硬度の高い水を使って、アルカリで浸け置きすると、炭酸カルシウムができて、その結晶は繊維の中で成長すると考えられます。そして繊維上に生成された炭酸カルシウムの結晶は、すすぎの時に取れません。なぜなら、すすぎの水の硬度が高い(炭酸カルシウムの溶解度以上)ので、繊維上の炭酸カルシウムは溶けません。
 その結果、繊維の風合いがごわごわしたりします。アルカリ洗浄でタオルなどを洗ったらごわごわになるという話も良く聞きますが、その原因は、アルカリによってセルロースの結晶構造が変わることと、固い炭酸カルシウムの残留が考えられます。
 普通の健康な肌の方はそれほど問題ないかもしれませんが、肌にダメージがある方には、炭酸カルシウムの残留は、汗によってアルカリになるので、できれば避けたいものです。

 結論としては、硬度の高い水を使っている場合、洗濯機で直ちにアルカリ洗浄する場合は、それほど問題ありませんが、浸け置きには注意が必要な場合もあります。

 軟水を使えば、アルカリ洗浄時に炭酸カルシウムはできないので、もちろん何の問題もないのは言うまでもありません。