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日本は軟水の国?
■日本は軟水の国? 「日本は世界的に見ても軟水の国であり、石けんを問題なく使うことが出来る。軟水器は必要ない」と主張される方もいます。一方、石けんを使っている方の中で、もっとも嫌われている点は。石けんカスの問題で、これがいやで合成洗剤を使われる方も多くいます。 ん?日本は軟水の国なら、石けんも快適に使えるのじゃなかったんじゃないのかな? 石けん系の掲示板での体験談でも、同じ粉石けんや石けんシャンプーを使っているのに、人によってずいぶん使い心地が違っています。これは、石けんそのものの問題より、使っている水道水の硬度が原因であることも多いようです。それでは、日本が本当に軟水の国であるかを考えてみましょう。 ■硬度とは 水蒸気は雲になり、雨となって地上に降り注ぎます。雨水は蒸留水と思われるかもしれませんが、実際は空気中の亜硫酸ガス、窒素酸化物などのガスや、鉱物や塩の粒子がとけ込んでいます。地上に降り注いだ雨は、一部は直接川に流れ込み、一部は地面にしみこんで地下水となります。川に流れ込むまで、あるいは流れ込んでからも、水は多くの成分を溶かし込みます。川の水を分析してみると、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、カリウム、鉄、硫酸、塩素、ケイ酸、リン酸、硝酸、アンモニア、油、農薬、その他多くの有機物が含まれているのがわかります。これらの成分の中で、石けんの洗浄力に大きく影響する成分であるカルシウム及びマグネシウムを硬度成分とよんでいます。 硬度の単位は通常、硬度成分を炭酸カルシウムで換算した濃度(mg/L=ppm)で表します。水中のカルシウム及びマグネシウム濃度と硬度の関係は次のようになります。 例えば、カルシウム濃度が16ppm、マグネシウム濃度が2ppmの水の硬度は48.2になり、これは水1リットルの中に、炭酸カルシウムが48.2mg溶けているということです。 石けんが泡立たない水を硬水、泡立つ水を軟水とよびます。硬水と軟水の違いは石けんが使えるか、使えないかという目安として用いられます。 世界保健機構(WHO)のガイドラインによると、硬度によって以下のように分類されています。
■日本の水の硬度 雨水はもちろん軟水です、しかし水が地面を流れるうちに様々な成分を溶かし、硬度は高くなります。火山地帯で石灰石(炭酸カルシウム)の多い地域では硬度は高くなります。また、地下水は水が長い時間をかけて地層の中を流れてくるので、一般的に硬度は高くなります。水道水は水源として河川水と地下水(あるいは混合して)が使われているので、硬度は使われる水源よって決まります。 (社)日本水道協会のHPには、全国の浄水場の水質データベースが公開されています。この中から、全国5623カ所の水道水の硬度データ(平均)をグラフにしてみました(平成10年度)。 世界的に見ると、欧米の多くの国は水源を地下水に頼っており、また、河川も日本と違って全長が長いため、硬度が高い都市が多いようです。 確かに、日本の水道水の硬度は、平均50〜60程度なので、外国と比較すると、きわめて硬度は低く、石けんを使うには適した水だといえます。 日本の平均硬度が50〜60といっても、硬度の分布は幅があることがわかります。硬度60以上の水道水は全体の31.7%、硬度100以上の水道水は7.7%となります。 また、地域によっても硬度は大きく異なります。おおむね北海道、東北、中部、近畿、中国地方は硬度が低め、関東、四国、九州、沖縄地方が高めであるようです。これは、北海道や東北が豊かな雪解け水を利用できるため硬度は低く、関東ローム層や九州の火山地帯、そして珊瑚礁の多い沖縄では硬度が高いと考えることが出来ます。 きわめて軟水の地方: 北海道、秋田、宮城、新潟、愛知、島根 比較的硬度の高い地方: 東京、神奈川、群馬、滋賀、福岡、熊本、千葉、埼玉、沖縄 比較的硬度が高く、人口も多い、東京都、埼玉県、千葉県、及び福岡県の各浄水場の硬度をまとめてみました。(このページの最後に資料としてまとめています) 硬度60以上の場所は、東京都で70%、埼玉県は86%、千葉県は91%にもなります。硬度100以上の場所は、東京都では1カ所のみですが、埼玉県は16%、千葉県では20%、福岡県では21%にも及び、日本平均の2〜3倍の硬度の場所が多くあります。 硬度が低いとされている北海道でも、釧路町(280)、富良野市中五区(115)、本別町(107)など、硬度が高い地域もあります。一方、同じ富良野市でも下五区浄水場の硬度は19であり、市内でも硬度は大きく異なります。 大阪府でも、河南町(122)、摂津市(112)、柏原市(101)から、岬町(24)、河内長野市(27)まで、4倍もの差があります。 意外なことに、硬度が高いと思われている沖縄県でも、那覇市(48)や石垣市(53)などは東京都より硬度が低かったりもします。 つまり、日本平均では硬度は50〜60と軟水であると言われていますが、地域によって大きく異なるということです。まずは、自分が使っている水道水の硬度を確かめてください。硬度は水道局に電話をすれば教えてもらえます。 日本各地の水道水水質のデータはこちらに掲載されています。お使いの水道水の硬度を知ることが出来ます。 ■硬度と石けんカス 石けんは水中の硬度成分と強く結合し、不溶性の金属石けん(石けんカス)を生じます。そのために、洗濯時の洗浄力は硬度に強く影響を受けます。洗濯時に50リットルの水に50gの粉石けんを溶かした場合、硬度と石けんカスの量の関係は、計算上次のようになります。(石けんはステアリン酸ナトリウムとして計算)
硬度50でも、使った石けんの約3分の1が石けんカスになって、残った石けん分で洗濯していることになります。硬度100では約6割が石けんカスになり、洗浄力は著しく低下します、硬度150では洗浄力はほぼゼロになり、石けんカスの中で洗濯物をかき混ぜているだけです。 硬度120までは「やや軟水」で、問題なく石けんは使えるとされています。しかし、硬度120では、発生する石けんカスの量は36.7gとなり、衣類の汚れの量よりはるかに多く存在し、洗濯液の中でもっとも多く存在している汚れは石けんカスであるということになります。 硬度が高い場合は石けんの量を増やすことで、ある程度洗浄力の低下は防ぐことが出来ますが、石けんの量をむやみに増やすと、すすぎの時に大量の石けんカスが発生し、衣類に残留し、臭いや黄ばみの原因になります。石けんカスは衣類だけでなく、全自動洗濯機の内槽と外槽の間に付着し、黒カビの原因にもなります。排水パイプのつまりの原因にもなります。 そして、環境問題を考えたとき、石けんはコンパクト洗剤の約4倍の有機物負荷があるとされていますが、硬度が高く、石けん量を増やした場合、さらに有機物負荷は高くなります。いくら、石けんの分解性がいいといっても、大量に使用すると他の有機物同様環境に負荷を与えます。また、すすぎに使う水の量も増えます。今や、水も貴重な資源です。 炭酸塩を加えると石けんカスの発生を防ぐと言われる方もいますが、炭酸塩は硬水軟化作用はありません。石けんと硬度成分の結合力は、炭酸塩と硬度成分の結合力より強く、炭酸塩は石けんカスの発生を防ぐことはできません。炭酸塩のようなアルカリ助剤は、洗濯液をアルカリ性にして、石けんカスにならずに生き残った石けんの洗浄力を高めるだけの働きしかありません。 ■硬度と石けんの使い心地 入浴、洗顔で石けんを使う場合も、水の硬度でずいぶん使い心地が違ってきます。温泉好きな人なら、時々、石けんの泡立ちがいい温泉に出会うことがあります。石けんをすすいだ後も、なんだかぬるぬるして、ちゃんとすすげていない気がするけれど、温泉を出た後は、肌がつるつる、すべすべになる。このような温泉のお湯は軟水です。 例えば、旭川つるつる温泉(0.5)、群馬片品温泉(11)、箱根湯本温泉(7)、静岡寸又峡温泉(3)、愛知県犬山温泉(17)、和歌山龍神温泉(22)、愛媛道後温泉(9)、佐賀武雄温泉(10)、佐賀嬉野温泉(22)、熊本山鹿温泉(6) などが軟水の温泉です。 硬度が高いと、泡立たないので、どうしても石けんを多く使います。そのため石けんカスも多く発生し、肌に残留します。その石けんカスのせいで、洗顔後の肌がつっぱります。 特に、過敏肌、アトピー、乾燥肌の人は、添加物の多い合成系のボディシャンプーや洗顔料より、純石けんを使った方が肌に対する刺激は小さくて良いはずですが、使う水の硬度が高くて、石けん使用量が増えたり、石けんカスが残るようでは、石けんのメリットは半減します。せっかく、石けんを使っても、洗顔後、肌がつっぱるので、保湿力の強い化粧品をたっぷり使わざるを得なくなっては、何のために石けんを使うか分からなくなります。 硬度の低い水では、同じ石けんでも使い心地は全く違ってきます。泡立ちが良いので、石けん使用量はごく少なくてよく、石けん使用量が少ないため肌への刺激も小さくなります。石けんカスの残留も少ないので、肌はつるつるで、保湿剤も、ごく少量で済みます。 石けん系の掲示板で、体験談を聞いて、自分も同じ石けんを使ってみても、全然結果が違うことがあります。そんなとき「石けんが自分にあっていなかった」と思いがちですが、多くの場合は、使っている水の硬度によることが多いです。水の硬度は、石けんを全く別物にしてしまいます。 石けんシャンプーと硬度の関係は「石けんシャンプーの化学」に示しました。 ■日本に軟水器は必要か? 欧米のような硬水の地域では多くの家庭で軟水器を使用しています。では、日本では軟水器は必要でしょうか? 日本は平均的には軟水の国ですが、地域によって大きく硬度は異なります。硬度が40以下の地域では、洗濯、入浴とも問題なく石けんが使えるので軟水器は必要ありません。また、石けんじゃなくて合成系のボディシャンプーや洗顔料を使っている人は、軟水にしても大きな差はないので不要です。 硬度60以上で徐々に硬度の影響が出てきます。硬度対策は、石けんを使う工夫で、ある程度カバーできます。ちゃんと硬度に応じた石けん量を調節する、硬水に強い石けんを選ぶ、きちんと溶かす、お湯を使う、炭酸塩を多めに入れる、石けんカスはまめに掃除する・・・etc この部分は人によって「どれくらいがまんできるか」が違いますので一概には言えません。硬度150でも、石けんを2〜3倍量使って、根性で使いこなす人もいるでしょう。 軟水は肌に対する刺激が小さく、手荒れ、過敏肌、アトピーなどで悩んでいた人の中には、軟水を使うことで症状が緩和されたという方も多くいます。(軟水はアトピー等を直接治療するのではありませんが、ダメージを受けている肌への刺激を少なくすることで、治癒を早めると考えられます) 軟水器は石けんの欠点を補い長所を引き立ててくれます。石けんはいいと思うけれど、石けんカスがいやだという人は軟水器を使うことで、まさに「石けんのいいとこどり」の生活が実現できます。石けん使用量を大幅に減らすことが出来るので、肌にも、財布にもやさしい。そして、石けんの使用量を減らすことは、石けん原料のヤシ油プラントの過剰な開発を遅らせたり、排水による有機物負荷を低減させるという地球環境問題にも有効な方法となります。
■東京都、埼玉県、千葉県、福岡県の水道水の硬度 (出典:日本水道協会、平成10年度、平均値) 東京都
埼玉県
千葉県
福岡県
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