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石けんシャンプーの化学


■石けんシャンプー
 
 初めて石けんシャンプーを使った人、普通のシャンプーとあまりに違うことに驚かされます。大抵は、評判は悪い方だと思います。洗髪したときにキシキシする、指が通らない、髪の毛を乾かした後ゴワゴワする、逆にべたべたになる、石けんカスがフケのように残る・・・etc
 石けん系の掲示板での相談内容を見ていると、上手に使っている方もいるようです。でも、そんな人と同じ石けんシャンプーやリンスを使っても、上手くいかないと言う声も聞かれます。
 どうやら、石けんシャンプーは、普通の合成シャンプーとかなり性質が違い、使いこなすにはコツがいるようです。今回は、石けんシャンプーの原理を勉強し、どうすれば上手に使いこなせるかを考えてみましょう。
 
石けんシャンプーと合成シャンプーの違い
 
1.石けんシャンプーは、主成分が脂肪酸カリウム(石けん)で、弱アルカリ性、石けん以外の添加剤は入れることは少ない。一方合成シャンプーは、高級アルコール系(AS)や非イオン系(AE)、アミノ酸系など種類は多いが、大抵は中性から弱酸性、製品の特長を出すために香料、保湿剤、防腐剤など多くの添加物が含まれている。
 
2.リンスは、石けんシャンプーのリンスはクエン酸やお酢を使うことが多い。製品にはグリセリンや香料が含まれていることもある。一方、合成シャンプーのリンスは、陽イオン系の界面活性剤やオイル成分、プロテイン、シリコーン、香料、保存料、色素など多くの成分が含まれている。
 
 安全面から言えば、添加剤の少ない石けんシャンプーと酸性リンスの方がいいのは間違いないでしょう。反面、シャンプーの仕上がりと言えば、様々な機能を持たせ、特に、リンスについては、シリコーンオイルなどを髪の毛にコーティングするタイプのリンスが、確かにお手軽に、いい仕上がりになります。
 では、なぜ石けんシャンプーの使い心地が悪いかを考えていきましょう。
 
石けんシャンプーの化学
 
 まずは言葉の説明から
石けん(脂肪酸イオン) 水に溶けてアルカリ性になる
ミセル 石けんが集まってボールのようになる。ボールの内部に汚れや油を取り込むことで、油を水に溶けるようにする
カルシウムイオン 硬度成分とも呼ばれ、石けんと結合して、石けんカス(金属石けん)になる
石けんカス 水にはほとんど溶けない。石けんとカルシウムの結合力は強く、一度できたら、なかなか分解しない
水素イオン 水の中に存在する。酸性の水(クエン酸など)には多く含まれる
脂肪酸 石けんが酸や中性の水に触れると、石けんと水素イオンが結合してできる。水に溶けにくい油状の物質。皮脂にもごく普通に含まれる生体成分、皮膚が弱酸性に保たれるのも、この脂肪酸があるから。

 石けんシャンプーを各段階で見ていくと
1.洗髪時
 
洗髪時は石けんシャンプーは弱アルカリ性なので、髪の毛のキューティクル(ウロコのようなもの)が開いてしまう。
シャンプーの泡の中に大量の石けんが含まれ、汚れが落とされる。このときは石けんカスは少ない。石けんの一部は脂肪酸になっている、脂肪酸は油状で水に溶けにくいので髪の毛の表面に吸着する。
2.すすぎ時
 
水道水ですすぐと、石けんが薄められて、洗浄力がなくなり、水道水に含まれるカルシウムイオンと石けんが結合して、石けんカスがどんどんできる。石けんカスは水に溶けないので、髪の毛表面に吸着する。
髪の毛に吸着していた脂肪酸も、カルシウムイオンと結合し石けんカスになる。
3.すすぎ終了時
 
髪の毛全体が石けんカスに覆われている。そのため、洗髪後、髪の毛はキシキシする。
このまま、リンスせずに乾かした場合、キューティクル内部の石けんカスは取れないのでフケのような粉が残る。石けんカスは保湿力がないので、仕上がりはゴワゴワになる。
4.クエン酸リンス
 
石けんシャンプーの仕上げにはクエン酸やお酢を使った酸性リンスは必需品。酸性リンスをすることで、アルカリで開いたキューティクルを閉じると同時に、表面の石けんカスの一部を脂肪酸に変えることが出来る(ただし、石けんカスの結合は強いので全ての石けんカスが脂肪酸に変わるわけではない)
5.クエン酸リンスの間違った使用法
 
時々、「クエン酸リンスは石けんカスを分解する」と思いこんで、すすぎが不十分なうちにリンスする人もいるようですが、これは大間違いです。
すすぎが不十分で、まだ髪の毛に石けんが残っているときにリンスすると、石けんは全て脂肪酸に変わって、髪の毛にべったりと吸着します。
リンスしたのに、仕上がりがベタベタになるのは、このような理由からです。
 
 以上の石けんシャンプーの化学から、上手なシャンプーの仕方を考えてみましょう。
 
1.予洗いで汗や、汚れを流す
 石けんシャンプーの洗浄力を落とさない、酸によって余計な脂肪酸が出来ないように、シャンプー前にお湯でざっと洗っておく
2.シャンプーは適量を使って手短く
 石けんシャンプーのアルカリでキューティクルが開いているうちは、髪の毛が痛みやすいのでシャンプーの時間は出来るだけ早くする。
また、出来るだけ泡立てた方が、髪の毛同士がこすれないので泡ボトルなどを利用する(液体だと使いすぎる傾向がある)
3.すすぎはシャワーを使って生え際から先に向かって勢い良く
 すすぎの時に大量の石けんカスが発生するので、短時間で勢い良く流してしまう。生え際から、髪の毛の先に向かって一気に流すようにする。
4.クエン酸リンスを忘れずに
 リンスは、すすぎを完全にした後に行う。リンス後、時間をかけても石けんカスは簡単には脂肪酸には変わらない、むしろ、リンスを少しずつ髪の毛に流すようにした方がイオン交換が進み、効果的。あまり長時間髪の毛を酸性にすると痛むことがあるので注意。
5.カラーリングなどで髪の毛が痛んだ人は
 カラーリング、パーマなどは髪の毛の表面を痛めます。このように痛んだ髪の毛を石けんシャンプーすると、普段より仕上がりは悪くなります。リンスにグリセリンなどの保湿剤を入れる。乾燥後にオイルなどを補給するなどの工夫が必要です。
 
石けんシャンプーと軟水
 石けんシャンプーの仕上がりの悪さは、石けんカスが原因であることが多いようです。そして、石けんカスが発生する原因と発生量は、水道水の硬度成分によります。
 東京に住んでいる人が、札幌に旅行されたとき、石けんの泡立ちがいい、いつもの石けんシャンプーの仕上がりが違う、と感じられると思います。また、仙台に住んでいる人が、沖縄に行かれたら、石けんシャンプーの仕上がりが最悪、なんてこともあると思います。
 石けん系の掲示板でアドバイスを受けるとき、使っている水道水の硬度は重要なので確認する必要があります。同じ種類の石けんシャンプーでも、使う場所が違うと全く別物になります。
 
 軟水を使った人が、一番驚くのが石けんシャンプーの仕上がりです。「自分の髪じゃないみたい」、「美容院でシャンプーしたみたい」との感想が寄せられます。では、なぜ、軟水ではこんなに仕上がりが良いのでしょうか?
 
1.軟水すすぎ時
 
軟水にはカルシウムイオンが含まれないので、すすぎの時に石けんカスが出来ません。また、石けんもきちんとすすぐことが出来、髪の毛への残留もずっと少なくなります。
髪の毛表面には、薄く脂肪酸が吸着した状態になります。
2.仕上げ
 
髪の毛の表面は薄く脂肪酸でコーティングされます。アルカリ性の石けんの残留が少なく、脂肪酸は弱酸性のためキューティクルは自然に閉じます。
また、脂肪酸は皮脂にも含まれる天然の油状物質で、このおかげで髪の毛はさらさら、つやつやになります。
軟水を使うと、クエン酸リンスさえ必要ありません。
 
 実際軟水を使っている人に、「クエン酸リンスは必要か」と質問してみたところ、カラーリングやパーマで髪の毛が痛んでいる人はグリセリンなどの保湿剤と一緒にリンスしている人が多いのですが、それ以外の人はクエン酸リンスは使う必要ないとの答えでした。