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石けんの常識・非常識


 石けんや合成洗剤にはいろいろな常識、そして非常識が存在します。ここでは、そんな話を科学的に検証してみます。

× 合成洗剤には催奇形性がある
 これは、合成洗剤反対派がよく使う有名な話である。
1969年、三重大の三上らが、日本先天異常学会で「合成洗剤がもとでネズミの胎児に奇形が発生する」と発表する。
1976年、厚生省依頼のLASについての合同研究班LASの催奇形性を否定する旨の研究結果を発表する。
1979年、大平首相、国会で、通常の使用方法での合成洗剤の安全性などは内外の研究結果により確認されている旨の答弁書を提出する。
 という流れで、政府の公式見解としては否定されています。その後、追試験で催奇形性は報告されていません。

× 蛍光増白剤は発ガン性の恐れがある
  これも有名な話で、ブラックライトを持ち出して、あちこち光らせて、「発ガン物質に汚染されている」と大騒ぎする。
 蛍光増白剤に発ガン性の疑いがかけられたのは、その構造の骨格部分が他の発ガン物質と似ていたからであり、蛍光増白剤そのものに発ガン性が認められたわけではありません。
(「最近の合成洗剤と石けん」,協同組合石けん運動連絡会(1997) も参考にして下さい)
 
 先ほどの催奇形性の話も同じですが、科学的な考察が不足したまま、消費者に恐怖を与えて、何が何でも合成洗剤を禁止するといった運動は、洗剤公害と呼ばれていた1970年代に活動家がよく使っていた方法です。
 そのころに比べて、化学物質の安全性データも現在ではそろってきており、リスク評価などの新しい考えも導入されているので、いつまでも「恐怖をばらまく」方法は通用しません。中・長期的にみれば、そのようなやり方は、逆に一般市民から不信感を持たれ、運動にとってはマイナスであることを考えるべきです。石けん推進派の人もちゃんと勉強して理論武装しなければだめだと思います。

× 粉石けんより合成洗剤の方が洗浄力が高い
 大量に流されるCMのおかげで、こんなことが強引に常識となっています。
ぜひ、一度洗浄力試験をしてみてください。

× 蓄積された合成洗剤は人の精子を殺すので、精子の数が減って子供ができなくなる
 環境ホルモンの話と合成洗剤の殺精子作用がごっちゃになっています。
合成洗剤は殺精子作用があるので、それを利用した女性用避妊薬が市販されています。しかし、それと人の精子減少は別の話です。
 環境ホルモンと精子減少の研究も現在多くの研究所で行われていますが、結論が出るのはしばらく先になりそうです。

? アトピー性皮膚炎の悪化、肌荒れ、主婦湿疹、ハゲ、薄毛、枝毛、内蔵疾患、コレステロールの増加、不妊症、奇形児、流産、酸性体質、高血圧、血清カルシウムイオン低下で骨粗鬆症
 これらのうちアトピーから主婦湿疹までは、合成洗剤の直接影響であり本当です。しかし、それ以降は因果関係がはっきりしないものばかりです。ハゲ、薄毛は遺伝的要素やストレスによる影響の方が大きいでしょう。枝毛はパーマや紫外線、ストレスや栄養も原因となっています。
 内臓疾患、コレステロールの増加、不妊症、奇形児、etc はちゃんとした動物実験や疫学調査も行われておらず、単に可能性が少しくらいあるかもしれないという話です。

× 天然素材から作られたヤシノミ洗剤は安全で、環境にやさしい
 最近、消費者の自然志向の高まりから、この手の環境「イメージ」商品が多く出回るようになってきました。
製品パッケージを見て下さい。天然素材が原料であろうと、最終製品が合成洗剤であれば、安全性も、環境問題も、石油から合成された製品と同じです。

× お酢は石けんカスを分解する
 お酢の主成分は酢酸、クエン酸などの弱酸です。石けんカスは硫酸や硝酸などの強酸なら分解できますが、お酢程度の弱酸では分解しません。
 お風呂場についた石けんカスの掃除には重曹や炭酸ソーダのようなアルカリ剤に石けんを加えると効果的です。

× 綿や化繊の衣類もクエン酸でリンスすると良い
 クエン酸リンスはウールなどの動物性の繊維や洗髪後には有効です。これは、石けんのアルカリ性で開いたキューティクルを閉じるためです。
 しかし、綿や化繊にはキューティクルは無く、クエン酸リンスの効果はありません。試しに、靴下やタオルなどを2つに分け、片方をリンスして、片方をリンスしないでください。仕上がりを何人かで確かめて下さい(どちらをリンスしたか知らせないで)。どうですか、リンスの違いを何人が確認できましたか?

△ クエン酸リンスは髪についた石けんカスを分解する
 クエン酸の酸性で、髪の毛のキューティクルが閉じ、洗い上がりにごわごわになるのを防ぐことが出来ます。また、髪についた石けんカスの一部が脂肪酸に変わりますが、リンスをすすぐときに、また石けんカスに戻ります。

× クエン酸のキレート作用で石けんカスができにくくなる
 確かにクエン酸にはキレート作用がありますが、その力は弱く、また、キレート剤として働くのは水がアルカリ性の時です。クエン酸は酸性なのでキレート剤としての作用はまず期待できません。
 仮に、水をアルカリ性にして、クエン酸を加えたとしても、石けんとカルシウムの結合力は、クエン酸のキレート作用より強く役にたちません。
 エデト酸塩(EDTA)はキレートとしての力が強いため、多くの合成洗剤や一部の石けんに添加されています。EDTAの試薬単価はクエン酸の約3倍、もしクエン酸のキレート作用が効果的なら、EDTAより安価で安全なクエン酸が用いられているでしょう。

× クエン酸リンスだけで洗髪後の髪の毛のゴワゴワ、キシキシ感が無くなる
 確かにクエン酸リンスは髪の毛のごわごわ感を緩和できます。しかし、髪の毛についた石けんカスを分解したり、除去できるわけではないので、さらさらに仕上がるわけではありません。
 石けんカスを洗い流すには軟水を使うのが一番簡単で、明らか仕上がりは違います。

× 予洗いをすると粉石けん使用量を減らすことが出来る
 予洗いをすると、粉石けんの量を半分に減らすことが出来る、などの意見も聞かれますが、これは間違い。
粉石けんの最適使用量は主に使っている水の硬度で決まります。
 予洗いによって、確かに汗や、水に溶けやすい汚れは落ちますが、石けん使わないと落ちない脂質、タンパク質、鉱物油などの頑固な汚れは残っています。それなのに、石けん使用量を減らして、洗浄力の無い石けん液で洗濯しても、逆効果です。
 ただし、赤ちゃんの食べこぼしなどの、べっとり付いた汚れは石けんを多く消費するので、軽く流水で洗ってから洗濯すればいいでしょう。
 石けんの最適使用量については 石けんカス発生のメカニズム を参考にして下さい。