- ■福島原子力発電所事故
2011年3月11日に起こった東日本大震災によって、福島第一原子力発電所が大きなダメージを受け、水素爆発やベント(原子炉内の水蒸気を放出する)、汚染水の流出などによって放射性物質が環境中に放出され、首都圏でも水道水から飲食物摂取制限に関する指標値を超える放射性物質が検出されるなど、大きな社会問題となりました。
また、4月になっても福島第一原子力発電所の放射能封じ込めは解決しておらず、今後長期的に放射能の流出は続くと考えられています。
放射能と聞くと、恐ろしいものというイメージが強く、水道水や野菜、牛乳から検出されたというニュースが流れると、パニック状態から、首都圏でもミネラルウォーターや紙おむつが買い占めによって姿を消す、風評によって汚染されていない福島産や茨城産の野菜が売れないなどの状態が続いています。
今、私たちは放射性物質から身を守るために、何に注意して、どのような行動をすればいいのでしょうか?
■正しい情報を入手する
放射能の危険をあおる情報はネットでも氾濫しています。また、うがい薬を飲めばいいとか、わかめを多く食べればいいとか、水道水は飲めないとか、科学的根拠のない悪質な情報も多く出回っています。
何が本当の情報かを、きちんと判断することが大切です。
正しい情報源をいくつか紹介します
■私たちは何に注意すればいいのか
トピックス的に、疑問点とその答えを掲載します。ご質問は、掲示板や、お問い合わせフォームでも受け付けます。
1.うがい薬を飲めば放射能を除去できる?
甲状腺はヨウ素を取り込んでホルモンを作ります。放射性ヨウ素を取り込む前に、多くのヨウ素を飲用しておけば、甲状腺にヨウ素がたっぷりあるために、放射性ヨウ素は取り込まれないという原理です。ヨウ素製剤は、原発事故処理者など、放射線取り扱い作業に関わる人が飲用する薬です。
現時点で、食品や水道水から取り込まれる放射性ヨウ素は、直ちに健康に影響を与えるほどの量ではないので、一般の人がヨウ素製剤を飲む必要はありません。
うがい薬にはヨウ素が含まれるので、飲むとよいというデマ情報がネットを通して広がりましたが、うがい薬には、ヨウ素以外の添加物も多く含まれ、飲用すると毒性があり危険です。
2.水道水は危険なのでミネラルウォーターを飲んだ方がいい?
水道水から放射性物質が検出され、首都圏ではパニックのようにミネラルウォーターを買い占めする状態が続いています。検出値は気を付ける必要はありますが、水道水の暫定基準値は、その濃度を長期間飲み続けたときの値で、きびしい値となっています。
成長期の乳幼児は放射性ヨウ素の影響を受けやすいので、できるだけ避けた方がいいと思いますが、現時点では大人への影響はほとんどないと考えられます。マスコミや信頼性の乏しい情報によって危険をあおられ、大人がミネラルウォーターを買い占めるという愚かな行為は考え物です。ミネラルウォーターは、必要とされる乳幼児や、被災地の方が入手できるようにしたいと思います。
ミネラルウォーター類の水質基準値は、水道水の基準に比べてずっと緩いものです。水道水では検査される項目も、ミネラルウォーター類では検査されていません。当然ですが、放射性物質の検査もされていません。
実際、ミネラルウォーター類にカビや異物が混入される例は、国民生活センターからも多く報告されています。もちろん、信頼できるミネラルウォーターも多くありますが、この震災に乗じて、大量生産、輸入されているミネラルウォーターのすべてが安全とは言い切れません。また、水を買う習慣の拡大は、輸送のためのエネルギーを使い、石油の消費、地球温暖化に貢献するもので望ましいこととは思いません。
水道水の検査結果は公表されているので、その結果をよく見て、必要以上に怖がらずに利用してください。また、市販の浄水器でも水道水から放射性物質を除去することができると考えられます。 →水道水から放射性物質を除去する
3.野 菜
食品中の放射性物質の検査結果を見ると、ほうれんそう、ブロッコリー、小松菜、かきな、パセリなどから放射性物質が検出される例が多いことがわかります。これらは非結球性葉菜類やアブラナ科の花蕾類に分類されるもので、葉が直接大気や雨にふれることで、放射性物質が付着するためです。
キャベツなどの結球類や大根、ゴボウなどの根菜類、トマトなどからは比較的検出される例が少ないことから、放射性物質は根から吸収されることは少ないと考えられます。
ヨウ素やセシウムは水に溶けやすいことから、水で洗ったり、ゆでたりすることで放射性物質をある程度除去することができると考えられます。また、キャベツは外側の葉をむく、大根、ゴボウはよく洗う、果実は皮をむくことで、放射性物質はほとんど含まれないと考えられます。
福島県の一部の地域で生産された椎茸から暫定規制値を超える放射性物質が検出されています。特に放射性セシウムの濃度が高いのですが、椎茸がセシウムを特異的に取り込むかどうかは不明です。
現在流通している野菜は、生産地での検査が行われているので、放射性物質はゼロではなくても暫定規制値を超えるものはほとんどないと考えられます。一部出荷規制がされているといって福島産や茨城産の野菜を買わないという風評被害は避けたいものです。
もちろん、現在は放射性物質ゼロの野菜を求めるのは難しいかもしれませんが、乳幼児をのぞいて健康上の問題が生じることはないと考えられるので、気にすることなく利用するとよいでしょう。特定の生産地に偏らず、様々な生産地の野菜を利用するのも、トータルで放射性物質の摂取量を下げる方法です。
乳幼児をお持ちで、どうしても気になる方は、検査結果からできるだけ放射性物質濃度の少ない食品を求められてもよいでしょう。また、野菜の種類によっても濃度は大きく違いますから、比較的高濃度に検出されているホウレンソウなどは産地のはっきりした冷凍食品の利用も考えられます。
4.魚介類
魚介類の分析結果を見ると、イカナゴ(コウナゴ)から高濃度の放射性物質(放射性ヨウ素とセシウム)が検出されています。同じような大きさのカタクチイワシの濃度は比較的低く、サヨリ、ヒラメ、カレイからはほとんど検出されていません。サンプル数は少ないものの、どうも、魚の種類によって濃度はかなり違うようです。
イカナゴは、冬に海底で産卵し、春には仔魚(しぎょ)が表層を群れで遊泳しながら、小さな動物プランクトンを食べて成長します。この時期、ちょうど放射物質濃度の高い海域の表層で生活することから、高濃度の放射性物質が検出されたと考えられます。
魚介類も野菜と同じで、現在流通しているものは、放射性物質はゼロではありませんが暫定規制値を超えるものはほとんどないと考えられます。対応も、野菜の場合と同じです。乳幼児をお持ちで、気になる方は、当面輸入された冷凍品を利用するのもよいかと思います。
海域での放射性物質のモニタリング結果を見てみても、原子力発電所から流れ出した放射性物質は、直ちに太平洋に拡散するのではなく、表層を漂い、あまり拡散することなく南に流れているような傾向が見られます。当面は、沿岸で生息する、表層を泳ぐ魚に注目する必要があります。また、今後、ヨウ素を濃縮するワカメ、昆布などの海草類の検査結果も注意する必要があります。
5.牛 乳
牛乳(原乳)の検査結果を見ると、原発に近い福島県、茨城県産のものから高濃度の放射性ヨウ素が検出されています。牛は、大量の草を食べるので、放射性物質が付着した草から乳に移行したと考えられます。暫定規制値を超えるものは出荷されることはないので、大人は問題ないと考えられますが、注意したいのは成長期に大量の牛乳を飲む乳幼児です。現実的に、乳幼児への放射性物質の暴露の大部分は牛乳を通してと考えられます。
牛乳は鮮度を保つ必要があるので、生産地は消費地に近い必要があります。実際乳牛の飼育頭数は、北海道が日本の約55%を占めていますが、次に多いのは九州や東北ではなく、関東地方で約14%となっています。
関東地方で生産される牛乳は、しばらくの間は放射性物質が含まれるものが供給され続きます。乳幼児をお持ちの方は大変気になるところですが、入手可能なら北海道産など生産地のはっきりしたものを利用されると、乳幼児への摂取を抑えることができます。
また、粉ミルクも生産地と生産時期が確認できるのなら、北海道産などの放射性物質を含まないものを利用することができます。
6.リスクゼロの生活はあり得ない
放射性物質を過剰におそれて、魚離れや野菜離れが起こっているとの話も聞かれます。しかし、これはとんでもない誤りです。
魚は肉に比べて脂質が少なく、動脈硬化や肥満に効果があることは知られています。野菜をとらないと、ビタミンや食物繊維不足で様々な疾患の原因になることが知られています。
放射能といえば、ものすごく恐ろしいもの、ほんの少しでも口にしてはいけないという先入観から、食生活を間違った方向に変えると、放射能より遙かに大きいリスクを受けることになります。具体的にいえば心臓病や肥満、食物が原因となるがんなどです。
現在、日本人の3人に1人ががんで死亡していますが、暫定基準は1万人とか10万人に一人がんで死亡する確率が増えるといったことをもとに定められています。この小さなリスクを怖がって、生活を間違った方向に変えることは、より大きなリスクが待っていると考えるべきです。
リスクゼロの生活などありえません。リスクをよく知り、正しい知識と行動でリスクと共存することが求められています。
(続きます)
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