Home/

食品の保存 (1)基礎編


日本の食品自給率、廃棄率

 日本の平成19年度における食糧自給率(カロリーベース)は40%で、これは、諸外国に比べて、きわめて低い数字です。

食糧自給率(%)
日本 40
フランス   128
アメリカ 122
ドイツ 84
イギリス 70
スイス 49
韓国 46

 この低い食糧自給率にもかかわらず、日本全体で食べられるのに捨てられた食品(食品ロス)は、なんと500〜900万トン(率にして5〜10%)になります。これは、600〜1200万人の食料にあたります。世界の人口の7人に1人、約8億人が飢餓で苦しんでいることを考えると、なんと悲しい数字ではないでしょうか。

 マスコミなどで問題とされる、コンビニなどでの売れ残りによる食品の廃棄率は11%(300〜500万トン)ですが、家庭から廃棄される食品は3.8%(200〜400万トン)になります。つまり、コンビニや外食産業ばかり問題にされますが、自分たちが家庭から捨てている食品は食品ロス全体の4割にもなります。
 一人一人が、この食品問題に関心を持ち、無駄のない食生活を送ることは、今後ますます重要となる食糧問題解決への大きな力となります。


食品はなぜ痛むか?

 家庭から捨てられた食品の、捨てられた理由の多くを占めるのは、食品の腐敗、カビ、異臭などで、いわゆる食品が傷んで安全に問題があるとされたためです。
 食品が傷む原因は、酸素による直接酸化や、光による変色もありますが、大部分は、細菌やカビなどの微生物による食品の腐敗です。微生物は、条件がそろえば急速に増殖することが知られています、その条件とは

(1) 微生物の汚染
 食中毒に関係する主な細菌は、黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌、腸炎ビブリオ、サルモレラ菌、病原性大腸菌などです。これらは、食品加工段階で混入することもありますが、黄色ブドウ球菌や大腸菌は、ごく普通に皮膚などに存在する菌なので、食事を作るときに手やまな板、布巾、包丁などから食品を汚染することがあります。
 通常、家庭で作る食品に微生物が全く存在しないものはありません。少しくらい食品に微生物が存在しても、食中毒になることはないのですが、多くの菌が繁殖していれば、その生産する毒素によって食中毒が発生することがあります。食品衛生法では、食品ごとに菌の基準値(生菌数など)が決められています。この数は、おおよそ食品1gあたり1万個から10万個とされています。

(2) 温 度
 細菌は、一般的に加熱すると死滅し、低温にすると増殖しない(死滅するわけではない)ようになります。そのため、食品は加熱してから食べる、低温で保存することが常識とされています。
 細菌は条件が整えば増殖するスピードは速く、1個の細菌が1日で1000個に増えるということもあります。種類にもよりますが、細菌は30〜35℃程度、カビは20〜25℃程度が繁殖する最適の温度になります。夏場、冷蔵庫に入れずに放置した食品が一気に腐敗するのは、室温が、微生物の繁殖に最適なのが原因です。

(3) 酸 素
 カビや多くの微生物は増殖するのに酸素を必要とします。すなわち、酸素がない状態で保存すれば、カビや細菌の増殖を抑えることができます。

(4) 水 分
 微生物の増殖には水も必要です。乾燥した食品で微生物は増殖できません。


保存食品の知恵

 食品を保存する工夫は大昔から行われていました。いくつかの例と、その原理を紹介します。

(1) 塩 蔵
 漬け物、梅干し、魚の塩漬け、塩からなどは、塩分濃度が濃いため、浸透圧の関係で微生物の細胞から水分が奪われるため増殖できません。ただし、高い塩分は高血圧や胃ガンの原因とされているので、食べ過ぎには注意が必要です。

(2) 缶 詰
 缶に詰めて、缶ごと高温殺菌することで、内部は無菌状態になり、室温で長期間保存できます。

(3) 乾燥食品
 麺、パスタ、乾パン、小麦粉、鰹節、のりなどの乾燥食品は、微生物の繁殖に必要な水分が少ないので、保存食品としてポピュラーなものです。

(4) レトルト食品
 宇宙開発用に開発されたものですが、ポリエチレン、ナイロン、アルミニウムなどの何層もの素材でできた袋(光や酸素を通さない)に食品を詰め、加熱殺菌することで、缶詰のように室温でも長期間保存することができます。

(5) 冷凍食品
 食品を冷凍することで、微生物の増殖を抑えることができ、長期間保存できます。

(6) 脱酸素剤
 和洋菓子、餅などに生えるカビを防ぐために、パッケージに脱酸素剤が使われることが増えています。「エージレス」という商品名で小さな袋が入っていることに気づかれた方も多いと思いますが、中身は鉄を主体としたもので、酸化するときに酸素を奪い、袋の中を無酸素状態にし、微生物の増殖を抑えます。

(7) 殺菌剤(アルコール製剤)
 食品添加物として保存料は多くありますが、ここでは比較的安全に使えるアルコール製剤を紹介します。賞味期間が1ヶ月かそれ以上のパンがスーパーなどで販売されていることがありますが、この長期間の保存には、消毒用アルコールが使われています。アルコール製剤という、アルコールを少しずつ放散する紙のようなものが袋の中に入っています。アルコールの殺菌作用によって、室温でも長期間カビなどを防ぐことができます。

(8) 真空パック
 酸素を通しにくい袋で食品を真空状態で密封するものです。酸素がないので多くの微生物は増殖できません。また、水分が失われるのを防ぐことができるので、野菜や果実、冷凍食品の保存にも適しています。最近、家庭用の真空パック器も安価で販売されるようになりました。
(真空パック器については別のページで詳しく解説します)

(9) その他
 野菜や食品を保存するコツは、多くのサイトで取り上げられ、参考にしたい情報も多いので、それらの一部を紹介します。
   今すぐ真似たい食品保存テク
   食品の保存方法
   快適な一人暮らしのコツ
   食品の保存による経時変化と食品リスク
   食品保存テクニック
   野菜の上手な保存法
   大切な食べ物を無駄にしない本


まずは消毒

 食品を保存するためには、まず原因となる微生物で食品を汚染しないようにすることが重要です。そのポイントは以下のとおりです。

(1) 手を洗う
 手には普通の状態でも常在菌として微生物が多く付いています。常在菌は通常は問題になりませんが、食品に移って、食品中で大量に増殖したときに食中毒の原因になります。食事を作るなど、食品を扱う前には必ず石けん等で手を良く洗ってください。このとき、薬用石けんを使う必要はありませんが、爪の間、指の付け根などはていねいに洗ってください。

(2) 食品が触れるものを殺菌する
 まな板、布巾、包丁(特に柄の部分)、菜箸など、食品が触れるものは、良く洗って乾燥させる必要があります。肉や野菜を切ったまな板の洗い方が不十分だと、一晩で細菌が大量に繁殖し、次に使った食品を汚染することがあります。
 これらのものの殺菌は、熱湯、アルコール、ハイターなどが使われますが、最も簡単で効果があるのはハイター(次亜塩素酸ナトリウム)による消毒です。次亜塩素酸は石けん販売業者やトンデモ科学本では目の敵にされますが、正しく使えば安全であり、食中毒を防ぐのに効果的です。
 また、消毒用アルコール(エタノール)を小さなスプレー瓶に入れ、手やまな板の消毒に使うこともできます。

消毒用アルコールをスプレー瓶に詰める。
手やまな板、包丁などの消毒に使える。


温度管理

 加熱することで、多くの微生物は死滅します。しかし、一度加熱した食品も、温度がさめて、夏の室温(20〜40℃)付近になると、微生物は急速に増殖します。注意点は、

(1) 微生物を食品に入れない
 加熱した食品をジャムを作るときのように、そのまま密閉すれば微生物の汚染はありませんが、鍋などではそうはいきません。注意点としては、蓋を開けたままにしないことです。蓋を開けたままだと、空気中の微生物が食品中に落下して、増殖します。

(2) 微生物が増殖しやすい温度にしない
 20〜40℃に保つことで、微生物は急速に増えます。加熱した食品が室温付近にさめたら、そのままにせず、なるべく早く冷蔵庫に入れることで、菌が増殖する前に温度を下げ、増殖を抑えることができます。
 鍋が熱いまま冷蔵庫に入れると、冷蔵庫の温度を上げてしまうので、水につけて温度を下げてから入れると、室温付近の温度で保たれる時間を短くでき、菌の増殖を抑えるのに効果的です。


冷凍保存の注意

 余った食品を冷凍すると長期間保存できますが、家庭用冷蔵庫は、その能力から食品を凍らせるまで時間がかかるため、肉や魚の細胞を壊し、解凍したとき肉汁が出てしまいます(業務用冷凍食品は、急速冷凍で一気に凍らせます)。家庭用冷蔵庫で、急速に冷凍するには、冷凍庫に厚さ1mmほどのアルミ板(ホームセンターで入手できる)を敷くと効果的です。アルミニウムは熱伝導率が良いので、凍らせたい食品の熱を一気に奪って、素早く凍らせることができます。アルミ板がないときは、アルミホイルで包んでもかまいません。
 また、冷凍食品自体を密封しなければ、水分が飛んで、一部乾燥状態になったりする霜焼けが起こります。凍った後はラップで包むか、ジッパー付きのポリ袋に、空気が入らないように入れてください。


家庭用乾燥器(デシケータ)

 のりや鰹節、干し椎茸、パスタなどの乾燥食品は、本来保存に向くものですが、開封すると湿気てしまい、風味が悪くなったり、カビが生えたりします。袋をゴム輪で縛っても、密封できるわけでないのであまり効果はありません。業務用にも使われている乾燥器(デシケータ)を家庭でも使えるように作ってみました。

ホームセンターで入手できるコンテナを使います。
密封できるように、蓋に発泡ウレタンや発泡ゴムなどでできたテープを貼ります。
乾燥剤として、押し入れなどの乾燥に使う塩化カルシウムを入れます。
鰹節、炒りごま、タカノツメ、のり、開封したお茶づけ海苔やふりかけ、ポテトチップなどもぱりぱりの状態で保存できます。


使い捨てカイロ、消毒用アルコールを使った食品保存方法

 お菓子やカステラ、パンなどの保存には脱酸素剤がよく使われています。エージレスという商品名の書かれた小さな包みが食品と一緒に入っているのを見ることも多いと思います。この中身は鉄の粉と木炭などで、空気中の酸素と反応して酸化鉄になります。このとき酸素を奪うので、パッケージの中が無酸素状態になり、カビなどの増殖を防ぐことができるという原理です。
 実は使い捨てカイロの原理もこれと同じです。中身は同じように鉄分と木炭、塩などで、空気中の酸素と反応して酸化されるときに熱が出るため、カイロとして使われます。つまり、使い捨てカイロは脱酸素剤とし、食品の保存に使うことができます。


 消毒用アルコールもカビや細菌を消毒し、食品の保存に使うことができます。実際、パンやケーキなど多くの食品の保存に使われています。このアルコールも家庭で簡単に食品の保存に使うことができます。

 食パンを使って、これらの効果を調べてみました。
@食パンをそのままポリ袋に入れる(解放状態)
Aキッチンペーパーに水を含ませて、パンと一緒にポリ袋に入れ密封する
B使い捨てカイロを食パンと一緒にポリ袋に入れ密封する
Cキッチンペーパーに少量の消毒用アルコールを噴霧したものと食パンと一緒にポリ袋に入れ密封する。
それぞれを、室温(6月:20〜30℃)で放置し、カビの生え具合を比較しました。

ポリ袋(解放) 使い捨てカイロ 消毒用アルコール
開始日
7日後
10日後
14日後

 結果は上の写真のとおりです。
@ポリ袋に入れ、密封せずに解放状態のパンは、10日後に青カビ、黒カビが生え始め、14日後には全体が黒カビで覆われました。
A水分の多い状態で密封したパンは、@よりも早くカビが生え始めました。しかし、10日を過ぎた頃には、カビが袋の中の酸素を消費し尽くし、酸素がなくなったので増殖は止まりました。
B使い捨てカイロを入れたものは、袋の中の酸素が消費されて、袋がへこんできました。酸素がなくなっているので、14日後でもカビは全く生えていません。
Cアルコールを一緒に封入したものは、アルコールの殺菌効果で、14日後でもカビは全く生えていません。

 このように、使い捨てカイロや消毒用アルコールが食品保存に効果があることがわかりました。
使い捨てカイロは、ジッパー付きのポリ袋などに、パンやお菓子、餅などと一緒に入れて保存すれば良いでしょう。これは、石けんの酸化を防ぐのにも使うことができます。

 消毒用アルコールも同じように、使うことができます。ポリ袋の中にスプレーするだけなので簡単です。ただし、水分の多い食品ではアルコールが薄められるので効果は弱くなります。



参考になるサイト
 農林水産省 食糧自給率の部屋
 農林水産省 食品ロスの現状につい
 所帯における食品ロス
 食品廃棄の現状と課題