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お茶石けんから学ぶ 「アレルギー


■悠香『茶のしずく』のアレルギー問題

 2010年に起きた、悠香『茶のしずく』のアレルギー問題は、石けんに関心を持つ人、手作り石けんを作っている人にとっては衝撃的な出来事でした。
これは、『茶のしずく』の原料として使われていた「加水分解コムギ」が、皮膚から吸収されコムギ小麦アレルギーを発症したというものです。
「加水分解コムギ」は、小麦を酸や酵素で分解したもので、保湿力があり、石けんの泡立ちを高めます。『茶のしずく』の泡立ちの良さは、この加水分解コムギによるものが大きいと考えられます。

 小麦に食物アレルギーを持つ人は多く、食事をとおして摂取すると、眼のかゆみや眼の腫れ、顔のかゆみや顔の腫れ、鼻炎症状などを発症します。しかし、石けんに含まれる小麦がアレルギーの原因になるとは考えられていませんでした。そして、一度発症したら、食事で小麦を摂った場合でも症状が出るというものでした。
 小麦に含まれるタンパク質は、そのままでは皮膚から吸収されることはありません。しかし、加水分解すると、タンパク質の分子が小さくなり、アミノ酸やペプチドの形で皮膚から吸収されやすくなります。これらのタンパク質分解物は人によってはアレルギー原因物質(アレルゲン)として働き、繰り返し使ううちにアレルギーが発症するというものです。

    

 「加水分解コムギ」という名前を聞くと、特殊な薬品で分解処理した、自然界にはない特殊な物質と思われる方もいるかもしれませんが、この加水分解は、食物が胃や腸で消化されるときに、ごく普通に起こっている反応です。加水分解コムギも、パンやうどんを食べたときに、おなかの中でできている天然物です。

 ここまでで学んだことは

 ・茶のしずくのアレルギーの原因は「加水分解コムギ」で、茶は無関係
 ・小麦タンパク質は、そのままでは皮膚から吸収されないが、分解することで皮膚から吸収されるようになる
 ・小麦アレルギーは食事だけでなく、アレルギー物質が皮膚から吸収されることによっても発症する
 ・加水分解は食べ物を消化する中でごく普通に起こっている
 ・食品だから、天然物だからといって、石けんに加えて安全とは限らない



参考:
厚生労働省 
国民生活センター
リウマチ・アレルギー情報センター



■アレルギーの原因

 人には、外部から異物(アレルギー物質)が進入した場合、「抗体」を作り、異物を攻撃、排除する「免疫」という防御システムがあります。免疫は、はしか、水疱瘡などに一度かかると、二度とかからないような仕組みを作るなど、生体防御の優れたシステムですが、時としてアレルギー物質に過剰反応を起こし、体を傷つけることもあります。アレルギーの症状は、「皮膚がかゆくなる」、「じんましんがでる」、「せきがでる」などですが、重い症状の場合には、「意識がなくなる」、「血圧が低下してショック状態になる」といった重篤な場合もあります。
 アレルギー性鼻炎、食物アレルギー、金属アレルギー、ペットアレルギーなどで悩まされる人は増えています。主なアレルギー物質は以下のようなものです。

種類 品名 備考
食品 卵、乳、小麦、そば、落花生 特定原材料(義務表示)
あわび、いか、いくら、えび、オレンジ、かに、キューイフルーツ、牛肉、くるみ、
さけ、さば、大豆、鶏肉、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、ゼラチン、りんご
特定原材料(推奨表示)
花粉 スギ、ヒノキカモガヤ、ブタクサ、マツなど
金属 ニッケル、コバルト、クロム、水銀
動物 イヌ、ネコ、ヒツジ等の毛や垢
住環境 チリ、ダニ、ユスリカ、カビ、ゴム製品、金属、化粧品

 食品に何らかのアレルギーを持つ人は、全人口の1〜2%(乳児については10%)とされており、厚生労働省は、アレルギーの原因となる食品を使用した場合、食品衛生法によって表示を義務づけています。
 アレルギーを起こしやすい食品は、茶のしずくでも使われた小麦、鶏卵、乳製品が三大アレルギー食品で、それ以外にもエビ、カニなどの甲殻類、くだもの、ソバ、大豆などが知られています。


                       (平成14年・17年度厚生労働科学研究報告書より


参考:
アレルギーって何?



■手作り石けんに入れてはいけない材料

 手作り石けんに食品などを入れて楽しまれている方も多いと思います。石けん材料店にも、様々な石けん材料が売られています。私も、「この材料は効能があるでしょうか?」、「どのように使えばいいのでしょうか?」などの質問をよく受けます。
 石けんに加える材料の基本的な考え方、加える方法、加えてはいけない材料などの話は、「自分だけの石けんを作る本2」に詳しくまとめていますので、そちらを参考にしてください。
 ここでは、石けんに添加する材料のうちアレルギーの原因になるかもしれない材料を選んで、注意する点を述べたいと思います。

手作り石けんに食品を入れる時の問題点
 卵や牛乳、小麦粉が手についただけでアレルギー症状が出る人は少ないと思います。これは、卵や牛乳に含まれるタンパク質は、分子が大きくて、皮膚についても吸収されることがないからです。
 加水分解コムギは、小麦タンパク質を酸や酵素で分解して、皮膚からも吸収されるくらいに小さくなっています。そのため、皮膚から吸収され、アレルギーが発症しました。卵や牛乳に含まれるタンパク質も、そのままでは皮膚から吸収されることはなく、問題はないのですが、手作り石けん材料として使った場合、苛性ソーダと触れることでタンパク質が分解し、皮膚から吸収されるくらいの大きさになることは考えられます。つまり、手作り石けんにこれらの材料を使った場合、茶のしずくと同じように、卵アレルギーや牛乳アレルギーを発症する可能性があるということです。特に、卵や乳製品にアレルギーを持つ乳幼児に、これらの石けんを使った場合、その危険性は高まります。

牛乳 
 牛乳は食物三大アレルゲンの一つで、特に子供にアレルギーを引き起こすことが多い食品です。手作り石けんに加えると、苛性ソーダで分解してペプチドなどの皮膚から吸収されやすい形になると考えられます。これは、茶のしずくと同じ原理で、牛乳タンパク質分解物を含んだ石けんを使い続けると、牛乳アレルギーを発症する可能性があります。

 市販の牛乳石けんは、牛乳そのものを入れているわけではなく、牛乳から水分とタンパク質を取り除いて分離した乳脂肪を添加しているので問題ありません。しかし、手作り石けんには、アレルギーの原因となるタンパク質を含んだ牛乳そのものを使うこと、タンパク質が苛性ソーダで分解することが問題となります。

 牛乳を加えた手作り石けんは、自分だけで使う場合は自己責任で済みますが、知人にあげたり、販売する場合は製造者責任がかかります。石けん教室で教えるときも、アレルギー物質であることをきちんと説明する必要があります。
 作った手作り石けんには、食品では法律で定められている「特定原材料」表示を行い、牛乳アレルギーの人は使わないように明記する必要があります。

ゴートミルク
 山羊の乳(ゴートミルク)も手作り石けん材料として使う人も多いようですが、やはり牛乳と同じで、手作り石けんに入れると、苛性ソーダで分解してアレルギーを引き起こすおそれがあります。
 販売店の説明では「牛乳よりアレルギーになりにくい」と書かれているものもありますが、臨床試験結果や疫学調査などの科学的根拠が示されておらず、信憑性に欠けます。牛乳よりアレルギーになる人が少ないと言っても、そもそもゴートミルクを毎日飲んでいる人は少なく、比較しようがありません。


 卵も食物三大アレルゲンの一つで、やはり子供にアレルギーの多い食品です。やはり、アレルギー原因物質の卵を直接使い、苛性ソーダで分解する点が問題となります。「特定原材料」表示と注意書きは必要です。

豆乳、おから
 人気のある手作り石けん材料ですが、大豆は食品アレルギー原因物質の一つです。タンパク質が豊富で、苛性ソーダで分解されることから、使いたくない材料です。やはり、「特定原材料」表示と注意書きは必要です。
 なお、牛乳の説明でも述べたように、市販の豆乳石けんは、石けん素地に豆乳やおからを練り込んでいるので、苛性ソーダと直接触れることもなく、大きな問題にはならないと考えられますが、問題となるのは手作り石けんに使うときです。

オレンジピューレ
 食品アレルギー原因物質の一つです。できれば使いたくない材料です。やはり、「特定原材料」表示と注意書きは必要です。

ビーポーレン(花粉)
 花粉が石けん材料として販売されていることを知り愕然としました。花粉症に悩まされる人が多いのに、アレルギー原因物質を石けんに加えて、目や鼻などの粘膜に残ったらどのようなことになるか・・・容易に想像できます。

カラーラント、クレイ
 クレイを使った手作り石けんには要注意 でも述べていますが、クレイやカラーラントの中には、金属アレルギーの原因物質であるクロムやニッケル、銅などを含むものがあり、加えるには十分注意が必要です。