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洗剤のいらない洗濯機?


■洗剤のいらない洗濯機?

 消費者の環境問題へ関心が高まる中、「環境にやさしい」製品の開発が様々な分野で進んでいます。
家電品についても、エアコン、冷蔵庫などの消費電力の高い製品の省エネは著しく進みました。
 
 しかし、この環境ブームを商売に繋げようとする、あやしい製品が多く出回りだしたのも事実で、消費者は、そのような怪しい製品をきちんと判断する必要があります。
 「洗剤のいらない・・・」というふれこみの製品の中にも怪しい物が多く存在します。実は水だけでも汚れの多くは落ちます。多くの「洗剤のいらない・・・」製品はこのトリックを使っています。普段、水だけで洗ったことのない人が、これらの製品を使って、思ったより汚れが落ちるのにびっくりして、(水だけでも落ちるのに)これらの製品が効果があると思いこむのです。
 洗濯ボール、炭と塩で洗濯、セスキ洗い・・・これらはどれくらい効果があるか、客観的なデータが示された例が少なく、実際に洗浄力試験を行ってみると、水洗いとほとんど変わりません。
 
 2001年夏にサンヨー電機から「洗剤ゼロコース」をうたい文句にした洗濯機が発売されました。
 http://www.sanyo.co.jp/koho/hypertext4/0106news-j/0622-1.html
 ちょっと気になる、この製品の原理を見てみましょう。

■洗剤ゼロコースの原理
 
 サンヨーの説明では、

「電解水」の持つ汚れ分解・除菌能力と、洗浄力に定評のある「超音波」技術の相乗効果で、世界で初めて「洗剤ゼロコース」を実現しました。

とのことです。
 
 さて、電解水とは何かということですが、水を電気分解して、マイナスの電極側に出来るのが「アルカリイオン水」、プラスの電極側に出来るのが「強酸性水」です。
 アルカリイオン水は胃腸にいいといわれ、飲用、調理用に用いられますが、強酸性水は殺菌作用があり、アストリンゼン、殺菌に用いられます。
 電解水の詳しい説明は次のHPを参考にしてください。
 電解水のホームページ

 サンヨーの洗濯機は、電気分解によって、この強酸性水を洗濯に用いるという原理です。
でも、本当に強酸性水が洗濯に使えるのでしょうか?
 
 強酸性水はpHが酸性で、酸化力のある成分は次亜塩素酸であるとされています。次亜塩素酸は塩素系漂白剤の成分なので、殺菌力があるのも理解できます。ん??でも変だぞ、じゃあ、塩素系漂白剤で洗濯しているのと同じじゃないか?
 洗濯に使う水はアルカリ性の方が洗浄力が良いとされています。これは、アルカリが皮脂などに含まれるタンパク質や脂肪を膨潤させ、水に溶けやすい状態にしたり、石けんや洗剤の界面活性剤としての力を強めたりします。また、汚れの粒子の多くは水中でプラスに帯電しているので、アルカリ性の水に分散しやすく、陰イオン界面活性剤に取り込まれやすくなります。
 洗濯に使う水が酸性なら、汚れ落ちは格段に悪くなるはずです。

サンヨーの説明を見ると次のように書かれています
洗剤ゼロコースは
「着たから洗う」に代表される例えば、タオル、肌着、パジャマ、Tシャツなど に適していて
鉱物系の機械油、衣類にこびりついた皮脂、無機物(泥汚れ等)の汚れについては洗剤を使用してください。 
と説明されています。
 すなわち、洗剤ゼロコースは、洗浄力は期待できないので、ほとんど汚れていない物の洗濯に使ってくださいということです。
 
■いくつかの疑問点
 
1.本当に強酸性水が出来ているのだろうか?

 洗濯に使う水は100リットル以上必要ですが、短時間でこれだけの量の強酸性水が作られているのでしょうか?そして、強酸性水で洗って、繊維が痛まないのだろうか?、色物を洗って脱色されないのだろうか?
→多分、強酸性水の作られる量は少ない、水のpHを大きく変えるほどは作られないのが現実のような気がします。強酸性水に含まれる次亜塩素酸は、水道水中に含まれる塩素イオンを電気分解することで作られます。水道水中の塩素イオンの量は10ppm以下なので、出来る次亜塩素酸は数ppm程度。この量は、洗濯機に塩素系漂白剤をキャップ10分の1程度入れた量に過ぎません。つまり、「洗剤ゼロコース」でやっていることは、塩素系漂白剤をほんの少し水に入れて洗濯しているのと同じことです。
 
2.実用に耐える洗浄力は得られるのか?
 サンヨーの洗濯機の特長は「超音波」を使うことで洗浄力が高まることです。
しかし、昨年の暮らしの手帖78('99.2・3月号)で行った洗浄力試験結果は次の通りです。これは、汚染布を同じ条件で洗濯し、選択後汚れの落ち具合を光の反射率で測定しています。(数字が大きいほど洗浄力は強い)
 
洗浄力  備 考
日立 41 イオン洗浄
日立 35 水道水で洗浄
松下 24 遠心力
松下 30 かくはん(従来法)
東芝 27
三洋 26 超音波
従来型 32
 
 酸性の電解水では洗浄効果は期待できない、また、漂白効果も、塩素系漂白剤をキャップ10分の1程度じゃ大したこと無い、そして頼みの超音波も上で示したとおりです。
 サンヨーは電解水での洗浄が、従来と比べてどの程度効果があるのか、洗浄力試験結果を示して欲しいと思います。
 
3.洗濯中に電気分解して、感電の心配はないのか?
 洗濯中に電気分解しているので、水に触れても感電しないのか心配です。
→おそらく、低い電圧で電気分解しているのでしょう。逆を言えば、その程度の電圧では大した量の電解水は得られないと言うことです。あれれ、そう言えばマイナス側のアルカリイオン水はどこに行っちゃうんだろう?捨てているのかな?
ちょっと怖いのが、炭と塩で「洗剤ゼロコース」を使ったときです。この場合は塩を電気分解するので、大量の次亜塩素酸が発生しますが、どうなるのかな?


4.省資源はライフスタイルから
 環境や健康のため少しでも水や洗剤を減らしていこうという人が増えています。この洗濯機も、そのような消費者意識をねらった物だと考えられます。
 洗濯物によっては水洗いだけですむものも多く、1日に何回も洗濯する人は分けて洗えば良いでしょう。それ以前に「袖を通したら洗う」習慣は、朝シャンと同じで、大量の水資源を消費することは頭に入れておいて下さい。
 「洗剤がいらない・・・」とのうたい文句の製品は、その原理を知って、効果があるシーンで上手く使い分ける必要があります。新製品に飛びつかなくても、少しの工夫で同じ効果を得ることが出来ます。いずれにしても、省エネ、省資源は消費者一人一人の意識と、正しい知識によって効果が上がるのは間違いありません。


追加情報('02.1.19)
 国民生活センターが、話題の洗剤のいらない洗濯機について、性能評価テストを行い、結果を公表しました。
 
概要は以下のとおりです
1.洗剤ゼロコースを搭載した洗濯機の開発は、社会に対して洗剤の問題を提案した物としては評価できる
2.シミ汚れは洗剤ゼロコースがよく落ちた
3.一般的な、日常の汚れは、汚れ落ちは悪く、満足できる結果ではなかった
4.明らかに布は傷む
5.水や電気の使用量も多い
6.消費者は環境への関心は高いが、実際は1回着たら汚れていなくても洗濯するというスタイルが8割を占めている。

2,については、電気分解で次亜塩素酸が出来るので、当然の結果です。しかし、しみ抜きに漂白剤を使うのは常識で、わざわざ洗濯機に持たせる機能ではありません。必要なときにしみ抜きをすれば済みます。
むしろ、3〜5の結果が問題で、日常の衣類の洗濯に、洗剤ゼロコースを使うと、汚れは落ちない、布は傷む、水や電気は余計に使う、という事になります。

また、上にも述べましたが、消費者も、本当に環境のことを考えるなら、「着たら洗う」のではなく「汚れたら洗う」という原点に戻る必要があります。洗濯物はまとめて洗うことで、水も電気も節約できます、そのようなライフスタイルが、環境にも負荷を与えません。