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水生生物を守るための法律


■水質汚濁に関係する法律は

 日本の法律で、環境問題に関係するものは、「環境基本法」があり、水質汚濁を防止する目的で排水基準などを定めた法律は「水質汚濁防止法」です。
 (法律の内容は、こちらで見ることができます → 法庫 )

 これらの法律の中で、「環境基準」が定められています。
 人の健康の保護に関する環境基準値は、カドミウム、鉛、六価クロム、水銀などの重金属、チウラム、シマジンなどの農薬、四塩化炭素、1,2-ジクロロメタン、トリクロロエチレン、PCBなどの有機塩素化合物等、合計26種類の化学物質について定められています。
 また、生活環境保全に関する環境基準値として、pH、BOD、浮遊物質(SS)、溶存酸素および大腸菌群数が定められています。
 水質汚濁防止法はこれらの環境基準を達成するために、工場排水の規制を行っています。

■これらの法律の問題点は?

 「環境基本法」は、もともと「公害対策基本法」として昭和42年に制定された物です。元はといえば、当時問題となっていた、水俣病(水銀)、イタイイタイ病(カドミウム)等の公害に対応する法律であり、環境基準に指定されている物質も、特に人の健康に直接関係する有害物質が中心です。
 一方、現在、日常的に使われている化学物質は6万物質と言われていますが、環境基準で定められているのは、わずかに26物質です。合成界面活性剤のLAS、AS、AE等も対象外、近年、環境ホルモンとして話題になっている、ノニルフェノール、ビスフェノールA、有機スズ化合物、フタル酸エステル類、多くの農薬類も規制されていません。

 また、今まで主として「人の健康」や「富栄養化の防止」に重点が置かれてきたため、水生生物の保護については考慮されていませんでした。
 近年、化学物質汚染が原因ではないかと推定される魚介類のへい死、内分泌攪乱化学物質が原因ではないかとされる巻き貝の性異常等が報告されています。また、化学物質のみが原因とは特定できませんが、水産資源漁獲量の減少(今やイワシも高級魚)、絶滅危惧に瀕している生物の拡大(昔は日本のどこにでもいたメダカやタガメも入っている)も問題となっています。

■水生生物を守る法律

 欧米諸国では、水生生物保護のための環境基準の設定は1970年代から行なわれており、今では常識とされています。具体的な方法は、水生生物に影響を与えそうな化学物質については、まず毒性試験を行う(バクテリア、藻類、甲殻類、魚類、昆虫など)、そして、その結果から毒性の無い濃度を基準値として設定するというものです。

 日本では、農薬については水生生物を使った毒性試験は実施されていますが、その他の化学物質については、法的規制がないためにほとんど実施されていませんでした。

しかし、ようやく環境省も水生生物保全に係わる水質目標の検討を始めました。環境省のHPに中間報告が掲載されています。

  環境省報道発表資料 

 この報告書によると、
化学物質による水生生物影響を検討する。具体的には水生生物を使った毒性試験(慢性毒性)等を行い、化学物質ごとに目標値を検討する。

水域を淡水域については4つに区分する
1.イワナ・サケマス域、2.コイ・フナ域、3.イワナ・サケマス域で繁殖、稚魚の育成の場として特に保全が必要な水域、4.コイ・フナ域で繁殖、稚魚の育成の場として特に保全が必要な水域
海域については2つに区分する
1.水産生物及びその餌生物の生息域、2.海域で水生生物の繁殖、稚魚の育成の場として特に保全が必要な水域

そして、水域区分に応じた目標値を設定する、などとされています。

 優先的に検討すべき物質として81物質が示されています。これらは4つに分類されていますが、分類[1]、すなわち

 水環境中濃度 ≧ 安全性を考慮した毒性値(急性毒性、慢性毒性試験の毒性最小値)

と、最も優先すべき物質としてあげられているものには、合成洗剤の主成分である3種の界面活性剤(Alkylbenzene Sulphonate,Liner(C12)、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(直鎖アルキルのもの、LAS)、単一鎖長ポリオキシエチレンアルキルエーテル)、巻き貝の性異常が指摘されているトリブチルスズ化合物、フタル酸エステル類、マラチオンやフェニトロチオンなどの農薬、鉛、水銀、ニッケル、銅などの金属類などがあります。

■水生生物保護の重要性

 今まで、日本においては、化学物質の安全性は、人の健康が中心に論議され、水生生物の保護については、軽視される傾向にありました。
 快適さを優先した、資源を大量に消費するライフスタイルは、その見返りとして、環境に大きな影響を与えていることも理解する必要があります。

 日本は海に囲まれ、豊かな自然と、豊富な水産資源を有する国でした。環境の悪化による水産資源漁獲量の減少は大きな食糧問題となります。また、人のみの快適さのために野生生物をこれ以上絶滅させて良いのでしょうか? 日本の豊かな自然を、次世代にも引き継げるよう考えていきたいと思います。その意味でも、水生生物保全に関する、この法律の動きにも注目していきたいと思います。