Home/

石けんの化学


■石けんの作り方

 石けんの原料は動植物性の油脂です。油脂は1つのグリセリンに3つの脂肪酸が結合した形をしており、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)のような強アルカリと反応させると、加水分解して脂肪酸ナトリウム(石けん)とグリセリンになります。



 使われる油脂によって脂肪酸の種類が違います。油脂を構成する脂肪酸組成をまとめてみました。(油脂化学の知識、幸書房、1980)



 表中の、たとえばリノール酸の18:2の意味は、炭素数が18,二重結合が2個あるという意味です。

 原料油脂によって性質の違う石けんができます。石けんと一言にいっても、実は長さが違ったり、二重結合があったり、なかったりという、いろいろな脂肪酸の混合物である事がわかります。たとえばヤシ油に含まれるカプリル酸とオレイン酸を比べてみると、

     カプリル酸 C-C-C-C-C-C-C-COOH
     オレイン酸 C-C-C-C-C-C-C-C-C=C-C-C-C-C-C-C-C-COOH

 という具合に長さは2倍以上違います。一般的に炭素数が多くて二重結合の無い脂肪酸からできた石けんは水に溶けにくく、石けんカスができやすい、また、二重結合のある脂肪酸からできた石けんは酸化されやすく、黄ばみの原因になるとされています。
 石けんはこのように動植物性の油脂から作られます。私たちが油脂を食べたときにも、油脂は腸で脂肪酸とグリセリンに分解されて消化吸収されます。つまり、石けんは自然界にごく普通に存在するものであり、人の体を構成する物質の一部です。
 それゆえに石けんは皮膚に対して刺激が少ないし、毒性も小さいことは容易に理解できると思います。


■石けんの性質を知ろう

 石けんは界面活性剤として非常に優れており、かつユニークな性質を持っています。この性質をちゃんと理解すると、今まで石けんの欠点と思っていた点が長所に見えてきます、また、上手に石けんを使うことで石けんの能力を100%生かすことが出来ます。さあ、石けんの化学の世界へようこそ。
 石けんなどの界面活性剤は油汚れを取り囲むような形(ミセル)になって、本来水には溶けない油を水に溶ける形にします。だから衣服に付いた油汚れも落とせるわけです。

 下の図は石けんの濃度と汚れを溶かす量の関係を示したものです。図からもわかるように石けんの濃度が低いときは全く汚れを溶かす力はありません。石けんがミセルを作って油を溶かすには水道水中で0.06%(600ppm)以上の濃度が必要です。通常洗濯で使う石けん濃度は0.13%(1300ppm)程度なので、石けんの使用できる濃度って、案外狭いことがわかります。つまり、石けんの場合は洗濯の水の量に対して、きちんと石けんを量って入れないと、少なすぎると全く洗浄力がない、でも多すぎても無駄なばかりか、大量の石けんカスが発生して、すすぎに大量の水を使うことになります。



 合成洗剤は10ppmくらいの薄い濃度でも界面活性剤として働くので、石けんに比べて、使用できる濃度範囲は広く使いやすいのですが、すすぎに関してはいつまでも泡が残ります。石けんは、すすぎ1回目くらいで石界面活性剤としての力を失います。石けんの泡切れがいいのはこの性質からです。排水のことを考えると石けんはすぐに石けんカスになって微生物に分解されますが、合成洗剤は汚れを広範囲に拡散します。河川や海にでても本来溶けないはずの他の汚濁物質を溶かして水を濁らせたり、水生生物が汚濁物質を取り込むのを助けたりします。

 石けんがアルカリ性の水では使えるが、中性や酸性の水では使えない理由は次の通りです。石けんは上で示した形(脂肪酸イオン)で界面活性剤として働きますが、酸性の水(水素イオンの多い水)では水素イオンと結合して「脂肪酸(分子)」になります。これは、水に溶けにくく界面活性作用もありません。石けん液にお酢をたらすと液が白く濁って泡が消えるのはこの理由からです。しかし、脂肪酸分子はアルカリにするとまた、脂肪酸イオンになって界面活性作用が戻ります。粉石鹸にアルカリ助剤(炭酸ナトリウム)を入れるのはこの理由からです。



 硬度成分があると石けんカスが出来るのは下の図を見てください。石けんはカルシウムやマグネシウムイオンと強く結合して金属石けん(石けんカス)を作ります。石けんカスは非常に水に溶けにくく衣服や排水口に付着する厄介者です。