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あやしい「水」商売


■はじめに
 環境問題の高まりの中、一般消費者も「水」に対する意識が変わってきています。水は身近なものだけに、より安全な水、おいしい水を求める声も年々高まっているように感じられます。
 そんな、一般消費者の声を背景に、「水」を商売とする産業も年々成長しているようです。しかし、それらの中には「怪しい」ものも多く存在します。
 ここでは、「水」商売を科学的に検証してみることにします。

■水道水は危険か?
 水を商売にする業者が、まず消費者に訴えるのが、「水道水は危ない」ということです。
水道水には危険な塩素が含まれる、発ガン物質のトリハロメタンが含まれる、農薬に汚染されている、環境ホルモンやダイオキシンも含まれる、鉄分や鉛、水銀などの重金属、さらにマンションの屋上の水槽にはネズミの死体が浮かんでいることもあるetc.
 このように水道水がいかにも危険であるかの印象を持たせた後、「我が社の浄水器は云々」という具合です。

 しかし、水道水は本当に危険なのでしょうか?
 水道水は水道法によって、様々な水質基準が設けられています。最も問題とされているトリハロメタンの一つクロロホルムの基準値は60ppbです。これは、水道水を一生飲み続けたときに10万人に1人はガンになる恐れがあるという基準です。
 10万に1人という数値を危険とみるか、気にしなくていいと見るかは人によって違いますが、例えば喫煙者は10人に1人がガンになる、発ガン物質は水道水以外にも身の回りには多く存在することを考えると、水道水ばかりに安全を求めても仕方ありません。

 農薬についても同じです。ダイオキシンについても、人がダイオキシンを摂取する経路は、ほとんどが魚介類からであり、水道水からの摂取は無視できるほどです。
 総合的に判断して、水道水のリスクは、全健康リスクの中では小さなものと考えられ、それほど危険ではないと判断できます。
 それでは、この「小さなリスク」を除くために、あなたはどれだけお金をかけることができますか?

■安全な水、おいしい水とは
 それでは、水道水の中の不純物をどのように除けばいいのでしょうか?
まず、除きたいものとして、(1)不溶性微粒子(にごり)、(2)残留塩素、(3)トリハロメタン、(4)農薬、(5)カビ臭、(6)細菌、(7)鉄分、(8)鉛、井戸水を使っているところでは更に、、(9)ヒ素、(10)重金属(水銀など) があります。
 
次に、おいしい水の条件ですが、厚生省の「おいしい水研究会」によると、冷たくて嫌な匂いがしない、ミネラル・炭酸ガス、酸素等、味を良くする成分をある程度含み、有機物や金属、それに塩素など、味を悪くする成分を含まない水ということになります。
具体的には
水質項目 数 値
蒸発残留物 30〜200mg/l
硬 度 10〜100mg/l
遊離炭酸 3〜30mg/l
過マンガン酸カリウム消費量 3mg/l以下
臭気度 3以下
残留塩素 0.4mg/l以下
0.02mg/l以下
pH 6.0〜7.5
水 温 摂氏20度以下

という条件をみたす水です。
次に、これらの、安全で、おいしい水を作ることのできる浄水器の原理を見ていきます。

■浄水器の原理
 浄水器は多くのメーカから市販されており、どれを選べばいいか迷うほどです。それらのメーカーの説明には様々な美辞麗句が並べられていますが、浄水器を選ぶには客観的にその原理、機能を評価する必要があります。
まず、浄水器の原理をまとめてみます。
1.活性炭
 活性炭はいわゆる炭の一種ですが、表面積が広く、表面にあいた細孔内に有機物を吸着します。昔から広く使われており、信頼できる吸着剤です。活性炭は塩素を吸着するために、活性炭を通した水に細菌が繁殖するとも言われているため、銀をコーティングして抗菌性を持たしたものが主流です。
2.中空糸フィルター
ストローのように筒状の糸を何本も束ねて、その中をから水がろ過されて出る仕組みです。これは活性炭と組み合わされて使われることが多く、ろ過することで不溶性微粒子や細菌を除去できます。
3.逆浸透膜(RO)
実験用超純水製造装置にも用いられている、直径が0.0001ミクロンという微細な穴が無数にあいた膜を通すことで、不純物がほとんど含まない純粋な水を作ることができます。
4.電解水
水を電気分解し、アルカリイオン水と酸性水を作る装置。アルカリイオン水の原理は水を電気分解し、陰極(-)側に集まる水がアルカリイオン水で還元力があり、カルシウムなどを多く含む。陽極(+)に集まる水が酸性水で殺菌力があります。最近の研究で、この殺菌力は次亜塩素酸ソーダ(漂白剤に使われている)であることがわかっています。
5.ゼオライト
高温で焼結したセラミックの一種で、表面の無数にあいた穴に有機物や硬度成分を吸着します。合成洗剤の水軟化剤として添加され、イオン交換樹脂が普及する前には軟水器にも使われていました。しかし、浄水器に使用する程度の短時間での処理能力は活性炭より劣ると思われます。
6.麦飯石
アルミナなどが主成分の自然石で、不純物を吸着し、ミネラルを補給すると宣伝されていますが、不純物の吸着データは示されていません。ミネラルがどの程度増えるかのデータも示されていないので、その効果は不明です。
7.磁化水
水道管に永久磁石を挟むだけで、水が活性化されるそうですが、非科学的であり、原理的に話になりません。怪しい水のひとつです。
8.パイウオーター
二価三価鉄に誘導され、生体水に近い驚くべき水だそうですが、ここまでくると非科学的を通り越して、オカルトか宗教に近いものを感じます。

■浄水器の性能評価
市販されている浄水器は、国民生活センターや暮らしの手帳が性能評価テストを行っています。興味ある方はそちらも参考にしてください。
各種浄水器の性能をまとめてみました。



 水道水を煮沸させるだけでも塩素やトリハロメタンは除去されます。すなわち、水道水を調理に使う場合、高価な浄水器を使わなくてもほとんど問題ないということです。

 一般的に広く普及している活性炭浄水器も、リーズナブルである割に性能はいいようです。残留塩素とカビ臭を除去するだけで、水の味は格段に良くなります。特に中空糸付きのものは実用的には十分な性能だと思います。

 逆浸透膜は確かに水道水中の不純物を著しく除去し、純水に近いものができます。しかし、体に必要なミネラルまでとってしまい、味も何も無い水になります(おいしい水ではない)。装置も20万円以上と高価です。また、1リットルの浄水を得るのに4リットルの水道水が必要(3リットルは捨てる)ような製品もあります。本当に実験室なみの純水が必要でしょうか?

 アルカリイオン水は浄水ではなくて、一種の「機能水」で特殊なものです。これは、臨床的に有効性は確認される例もあるようですが、まだ、その原理はわかっていません。還元性があるので体内で活性酸素を消すという説明もよくされますが、それならビタミンCやE、ルイボスティーのほうが効果がありそうです。

 ゼオライト、麦飯石は浄水性能は疑問です。ミネラル補助などには使えるかもしれません(しかしデータは示されていません)。「理想的なミネラルバランス」にするなどと宣伝されていますが、ミネラルの大部分は食事で得られ、水から得られるのは、ごくわずかなので関係なさそうです。
 磁化水、パイウオーターは浄水器としては、全く役に立たないと考えられます。

■怪しい「水」の見分け方

1.「水道水の恐怖」のような出だしで始まる物は要注意
 先に述べたとおり、消費者の恐怖心を利用している。

2.原理が明確に示されている物で、科学的に見て間違いない物
 活性炭、中空糸、逆浸透膜など確立された原理である方が信頼性が高い。

3.浄化性能テストが公的試験機関で行われ、データが示されている物

 自社のデータは意図的に都合の良いデータを示している可能性がある

4.曖昧な評価基準を示している物は要注意
 生体水に近い、波動エネルギーを持つ、アトピーに高価がある、ガンが治った、アレルギーに効果がある、万病に効く etc.を使っている物は怪しい。

5.水のクラスタを小さくする、などという説明は要注意
 水のクラスタを小さくして、浸透圧が高くなる、溶解力が強まる、味が良くなるなどの表現がよく使われていますが、そもそも、クラスタ理論自体が確立されておらず、機器分析では直接クラスタを見ることはできません。
 また、浸透圧が高い、溶解力が強いと宣伝している割には、水道水とクラスタが小さくなった(と称する)水との比較試験データが示されていません。味についても、要因が多く、同じ条件でクラスタが小さくなった水の味がいいという客観的な官能試験データも示されていません。

6.水グルメもほどほどに

 最近、スーパーやコンビニにはいろいろな銘柄のミネラルウオーターが並んで、ずいぶん売れているようです。
 しかし、ミネラルウオーターは本当に安全でしょうか?
ミネラルウオーターは水道水のような厳しい基準は無く、硬度が異常に高く、下痢を起こす物や、地下水が原料の物は、高濃度のヒ素が含まれている物もあります。
 だいたい、ガソリンや牛乳より高いミネラルウオーターが安全面、栄養面でなぜ必要なのか疑問です。水道水をわかして、お茶、麦茶、ウーロン茶、最近話題のルイボスティーなどをいれた方がずっとリーズナブルで健康的です。
 また、製造、運搬にエネルギーがかかり、ペットボトルは環境問題に直接つながります。エコロジーを考えると「水グルメ」もほどほどにしたほうがよさそうです。