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合成洗剤の環境問題
■合成洗剤の水生生物に対する毒性 合成洗剤の水生生物に対する影響をまとめてみました1)2)。
環境から検出される合成洗剤(陰イオン系)濃度は通常1ppm以下ですが、この程度の濃度でも、水生生物によっては影響が出るものもありそうです。 特に、下水道が普及していない地方で、家庭排水から合成洗剤が直接河川に放流される場合は、その近辺の水生生物の発生に影響を及ぼして、生態系が狂うことが予測されます。 ■合成洗剤の汚濁物質可溶化能 合成洗剤は低濃度でもPCB、ダイオキシン、農薬などの水に溶けにくい汚濁物質を広く可溶化し、広く環境中に拡散したり、魚介類への取り込みを促進すると言われています。 合成洗剤と石けんの油性色素の可溶化能を下に示します。(水道水使用) 合成洗剤は、驚くことに、1ppmかそれ以下という低濃度でも色素を溶かす力があることがわかりました。このことから、合成洗剤は環境中程度の低濃度でも、汚濁物質を水に溶かす働きがあることがわかりました。 一方、石けんは0.04〜0.06%以下では、可溶化能は無く、合成洗剤のような汚濁物質拡散作用は無いことがわかりました。 。 ■石けんの環境負荷は合成洗剤より大きいか? 「洗濯石けんの有機物負荷は合成洗剤の3倍」と合成洗剤推進派は、石けんの方が環境に悪影響を与えると主張していますが、本当でしょうか? まず、原料ですが、合成洗剤の原料は石油、石けんは牛脂やヤシ油などの油脂です。短期的に見れば、現在の石油価格は安く、大量生産の流れの中で、合成洗剤は安価に生産されています。一方、原料油脂は、ヤシ油については、東南アジアで大規模のプランテーションが作られ、計画的に生産されるようになってきました。 石油などの化石燃料の大量消費は二酸化炭素の増加から、地球温暖化の原因を増加させるリスクがあります。一方、油脂は、基本的には太陽エネルギーを動植物が固定した物であり、マスバランスを考えると地球温暖化のリスクは小さいといえます。この考えは、発電は火力発電がいいか、風力・太陽光などの自然エネルギーががいいか、という問題に似ています。 結論は、短期的には合成洗剤が有利、長期的に見れば持続的再生産可能な石けんが有利ということになり、総合的には現時点では互角であると判断されます。 生態リスクを考えてみます。 日本における下水道普及率は平成8年度で55%です。確かに都市部では下水道は普及していますが、地方ではまだまだ普及率は低いままです。 合成洗剤は水生生物、特に発生時に毒性が強いとされています。下水道が普及していない地方で、家庭排水が直接河川に放出された場合、環境生物の生態リスクが高まり、生態系に悪影響を及ぼすと考えられます。 日本では、まだまだリスク全体に対して、生態リスクが重要視されていませんが、生態リスクの高まりは、将来水産資源の枯渇、生態系のバランスを崩し、生物相を偏ったものにする恐れがあります。 引用文献 1) 小林直正,水汚染の生物検定,サイエンティスト社(1985) 2) 三上三樹ら,合成洗剤,合同出版(1978) 3) 井上善介ら,水処理技術,18(1977) 4) 小林勇,合成洗剤研究会誌,1(1977) 5) Huggins,汚染の化学,地人書院(1977) 6) 桜井操一,合成洗剤追放めざして(1977) |